立命大ら,ナノ結晶表面の有機分子を光で可逆的脱離

著者: sugi

立命館大学,京都大学,分子科学研究所は,半導体ナノ結晶表面に機能性有機分子を配位した複合ナノ材料において,可視光線を照射することで有機分子が脱離し,その後数秒以上かけて再度表面に配位する現象を発見,解明した(ニュースリリース)。

半導体ナノ結晶はその特徴的な光電子特性により,近年,太陽電池やディスプレー,光触媒など,さまざまな光機能材料への応用研究が盛んに行なわれている。ナノ結晶表面の有機配位子は,ナノ結晶の分散性,触媒活性,電気伝導性,発光特性を決める重要な因子であり,これまでさまざまな有機配位子とナノ結晶からなる複合ナノ材料が報告されてきた。

その一方,ナノ結晶の研究は開発以来40年以上続いているにもかかわらず,これまでの研究では,光励起過程において有機配位子が安定にナノ結晶に配位していると暗黙に仮定され,その詳細はわかっていなかった。

今回研究グループは,機能性有機分子であるペリレンビスイミド(PBI)を配位子とし,硫化亜鉛(ZnS)ナノ結晶に配位させた複合ナノ材料(PBI-ZnS)をモデル物質として合成し,その光励起状態の詳細をさまざまなレーザー分光計測や量子化学計算によって解析した。

その結果,可視光線でPBIを励起すると超高速電子移動が起き,PBIがナノ結晶表面から脱離することを初めて明らかにした。さらに,脱離したPBIとZnSナノ結晶は数秒以上のきわめて長寿命の電荷分離状態を形成し,その後再度ナノ結晶に配位することも明らかにした。

この研究は,有機無機複合ナノ材料研究においてこれまで見過ごされてきた根幹的な現象を見出したものであり,ナノ材料化学や光化学分野において重要な知見であるとする。

それだけでなく,ナノ結晶表面の有機配位子はナノ結晶の分散性,触媒活性,電気伝導性,発光特性などのさまざまな機能を決めることから,研究グループは,光で分散性,触媒活性,発光特性などを制御できる光触媒や,ナノ結晶フィルムの導電性回路の微細パターニングなど,新しい光機能材料の開発に応用されることが期待されるとしている。

キーワード:

関連記事

  • 京大ら,深赤色から近赤外光で作動する有機触媒反応を開発

    京都大学と東和薬品は,深赤色から近赤外光(波長600〜800nm)で作動する有機触媒反応の開発に成功した(ニュースリリース)。 光を利用した化学反応(光触媒反応)は,環境負荷が低く選択的な有機合成法として注目を集めている…

    2025.11.07
  • 阪大ら,光に応答した分子を細胞内で可視化

    大阪大学と東京大学は,光照射によりアルキンへと変換される新しい化学構造を開発し,この構造を観察対象となる分子に修飾することで,光に応答した分子を細胞内で可視化することに成功した(ニュースリリース)。 これまで,生体内分子…

    2025.10.24
  • 愛媛大,有機分子でディラック電子を実現

    愛媛大学の研究グループは,有機分子を使って,通常の物質中には存在しない電子を実現することに成功した(ニュースリリース)。 具体的には、質量が通常の電子の1割程度に見えるほど素早く物質中を動き回る電子で,光にも似た振舞を示…

    2025.10.09
  • 名工大ら,ホウ素化合物を可視光エネルギーで合成

    名古屋工業大学と独アーヘン工科大学は,これまで過酷な反応条件を要していたポリフルオロアレーン類のC-F結合ホウ素化反応と比較的困難であったポリフルオロアリールホウ素化合物の鈴木・宮浦クロスカップリング反応の開発に成功し,…

    2025.09.29
  • 科学大,分子捕捉/放出可能な芳香環チューブ開発

    東京科学大学の研究グループは,作製後に,多段階かつ複数箇所で化学修飾できる芳香環チューブの開発とその空間機能の開拓に成功した(ニュースリリース)。 リングやチューブなどの環状構造を持つ分子は,空間内部を分子の捕捉・識別・…

    2025.09.12
  • 阪大ら,高効率な室温りん光を示す分子液体を開発

    大阪大学と九州大学は,室温で液体状態の有機分子から世界最高効率のりん光を得ることに成功した(ニュースリリース)。 りん光は有機ELやバイオイメージングに有用な発光機能の1つで,古くから研究されてきた。これまでは,室温で高…

    2025.09.09
  • 京大ら,電子効率を大きく高めた光触媒構造体を形成

    京都大学,シンガポール国立大学,シンガポール南洋工科大学,シンガポール材料技術研究所は,電子移動を最適化した共有結合性有機構造体(COF)を用いて,光の利用効率を大きく高めた光触媒活性COFの形成に成功した(ニュースリリ…

    2025.09.03
  • 阪大,光学材料に適したヘテロ[8]サーキュレンを合成

    大阪大学の研究グループは,入手容易な市販原料であるアニリン,キノン,ナフトール類を用いて電解合成を行なうことで,世界で初めて簡便・安全・低コストな非対称ヘテロ[8]サーキュレン骨格の構築に成功した(ニュースリリース)。 …

    2025.08.28

新着ニュース

人気記事

新着記事

  • オプトキャリア