埼玉大ら,量子力学世界をスケール分離する手法考案

埼玉大学,オーストリア ウィーン工科大学,理化学研究所,京都大学,スイス フリブール大学は、量子力学世界を「スケール分離」する数学的手法を考案した(ニュースリリース)。

量子物性物理学では,固体中の電子を独立して扱うことは多くの場合できない。例えば磁性や超伝導などの現象は,多数の粒子とそれらの間の複雑な相互作用が一緒に記述された場合にのみ理解できる。

しかし,多数の粒子が関与する場合,量子力学の公式は非常に大きく複雑になり,最高のスーパーコンピューターでも正確に解くことはできない。また,粒子の状態を正確に記述するには,必要な記憶容量が利用可能なものを超えてしまいまう。

したがって,ある種の近似を探す必要がある。これらの近似は,特定のスケールが無視できることに依存している。例えば,結晶中の電子と原子核を考えた場合,複雑な問題を2つの単純な問題に分割することができる。つまり,電子の高速な動き,原子の遅い動きをまず独立に扱い,その後に2つの間の関係を考えることで問題を簡単にできる。

しかし,このような直感的な解決策が見つからない場合はこれまで「推測」しかなかった。今回研究では,経験に頼らない数学的な方法を開発した。これは,どのスケールが重要でどのスケールが無視できるか,quantics tensor trainという数学の道具を使うことで,自動的に分かる。同時に,異なるスケールの現象間の関係をどうやって量子力学的に扱うかも分かるという。

この方法を使うことで,計算が困難な量子力学の問題を比較的扱いやすい小さな問題に分割し,必要な記憶容量や計算時間を大幅に削減することが可能になる。この方法は,電気伝導度,反射率,あるいは材料の磁場に対する反応など,材料の重要な特性を正確に記述するために使用できるという。

太陽光発電システムやエネルギー貯蔵,エネルギー効率の高いマイクロチップのより良い材料など,これらの全ての応用において,材料の特性を理解し,より良い材料を開発するには,電子の振る舞いを量子力学に基づいて解明する必要がある。

開発した方法は,これらの全ての応用にとって重要な新しいツールになるとともに,将来的には量子コンピューターや人工知能を材料研究に活用するための手段にもなるかもしれないという。研究グループは,新しい手法をより現実的な問題に適用し,効率・信頼性を調査するとしている。

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