東大,フォノンの流れを解明し放熱材料の性能を向上

東京大学の研究グループは,グラファイトの同位体を除去することで,100ケルビン(-173度)付近で強いフォノンポアズイユ流れが形成され,フォノンの相互作用によって生じる集団的な流れによって熱伝導が増強されることを確認した(ニュースリリース)。

金属よりも高い熱伝導率をもち,軽量で安価なグラファイト材料は,多種多様な電子機器の高性能化が可能になるとして注目が集まっている。

半導体における熱伝導の主役であるフォノンは,固体中の原子や分子の振動の準粒子であり,フォノン同士の散乱において,運動量を保存して散乱する正常散乱が優勢な場合,流体のように振る舞って集団的な熱輸送現象が生じる。

この巨視的な現象は,フォノン流体力学として,極低温における固体ヘリウムや黒リン,グラファイトで研究が行なわれてきた。グラファイトは正常散乱が強い材料であるため,フォノン間の相互作用が強く,フォノン流体力学による熱輸送を実現しやすい。

しかし,天然グラファイトは,フォノン流体の形成を阻害する同位体を1.1%も含んでいる。研究は,グラファイトにおけるフォノンポアズイユ流れの基準を理論的研究により明確にするとともに,天然のグラファイトに含まれる同位体13Cを1.1%から0.02%まで低減することで流体力学的熱輸送を実現し,熱伝導率を増強することを目的として行なわれた。

グラファイトの熱伝導率を10〜300Kの温度範囲で測定したところ,30Kからフォノン間の相互作用が強くなってフォノンポアズイユ流れが形成されることにより熱伝導が増強されはじめ,最も強い増強が観測された90Kでは,天然グラファイトに比べて2倍以上に増強された。

また,グラファイトは,面内と面直方向に強い異方性を示す。このような材料におけるフォノンの流体力学的熱輸送の有無を判断する基準を厳密に決定するための理論的研
究を行なった。流体力学的熱輸送と弾道的熱輸送を区別するため,熱伝導率(κ)が弾道的熱コンダクタンス(Gb)よりも,温度上昇にともなって大きく増加することを流体力学的熱輸送が優勢であることの判断基準として提唱した。

天然グラファイトは,温度上昇とともにκ/Gbが単調に減少する一方で,同位体純化したグラファイトでは30Kから増加傾向を示し,90K付近で2倍以上となり,150Kまで大幅に高い熱伝導が観測された。

研究グループは,室温でもこの現象が有効であることから,フォノンの流れを乱さないように,材料の高純度化や構造の改善などによって高い熱伝導を示す温度領域を拡大することで,多種多様な電子機器の熱管理に広く利用されることが期待されるとしている。

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