立命館大学,久留米大学,福井工業大学は,光合成における葉緑素(クロロフィル)分子の生合成中間体を発見した。加えて,その中間体の産生に関与する生合成酵素が二重の反応性を持っており,それらの反応機構を分子レベルで解明することにも成功した(ニュースリリース)。
自然界で行なわれている光合成は,クロロフィル色素分子が重要な役割を担っている。そのクロロフィル分子は,様々な酵素反応を経由することで生合成されている。それらの生合成酵素の機能については解明が進んでいるものの,詳細な反応機構についてほとんどわかっていなかった。
これまで,様々な酵素の反応機構を解明してきた研究では,結晶構造解析が必須だった。しかし,結晶構造解析は,酵素の精製および結晶化が困難であるため,解析に数年から数十年かかるケースも少なくない。
近年,(酵素)タンパク質の3次元構造モデルを高精度に予想できるディープラーニングを利用した計算科学が急激に発展してきた。そこで,その計算科学と,酵素で反応する基質分子を改変する有機化学と,酵素の活性部位の変異を行なう遺伝子工学の3つの分野を複合化させることで,光合成色素であるクロロフィル分子の生合成に関わる酵素の1つであるBciCの酵素反応機構の解明を目指した。
また,これまでの研究で,このBciC酵素がある特別なクロロフィル中間体を経由させていることは推定されていたが,その天然型の中間体は,化学的な安定性の面から検出困難であると考えられていた。
今回研究グループは,クロロフィル分子を変換するBciC酵素反応に関わるアミノ酸残基を,計算科学を駆使して予想した。そして,天然BciC酵素の部分変異を行なうことで,検出困難なクロロフィル中間体の検出が可能になることを発見した。
その中間体の発見により,BciC酵素は,加水分解反応と脱炭酸反応を触媒する二重機能を兼ね備えていることが明らかとなった。さらに,BciC酵素の加水分解反応に関与するアミノ酸残基の部分変異を行なうことで,加水分解反応機構を予想できた。またpH変化による,中間体モデル分子の脱炭酸過程を追跡することで,脱炭酸反応機構を推定することもできた。
今回,クロロフィル分子の生合成で働く酵素の反応機構を分子レベルで解明したことから,光捕集系のクロロフィル分子を人工的に作製する大きな手がかりとなるものと考えられるという。
研究グループは,光捕集能が最大のクロロフィル分子を生み出すことで,天然の光合成機能を超えた人工光合成システムの創製を目指した展開にまで貢献できることが期待されるとしている。