福井工大ら,異種生物の融合状態を認める生物を発見

福井工業大学,北海道大学,神戸大学,ポーランド,カナダ,チェコの大学機関は,植物の葉緑体の起源とその進化メカニズムを理解する上で重要な,異種生物の融合状態が認められる生物(ラパザ)を報告した(ニュースリリース)。

真核細胞が葉緑体を獲得した「植物化」は,他の光合成細胞を融合的に取り込む現象であり,過去に何度も繰り返されてきたと考えられている。しかし,このような異なる生物の細胞がキメラ融合する進化のメカニズムについては,仮説の域を出なかった。

ラパザは我々動物と同じく外部から有機物を獲得して生きる従属栄養生物の仲間でありながら,テトラセルミスという緑藻(=植物)から葉緑体だけを奪って利用することで,光合成のみに依存してあたかも植物のように生きる細胞だったことが今回わかった。

このような一過的な植物化は,「盗葉緑体現象」と呼ばれる。ただし,ラパザの盗葉緑体現象では,他とは一線を画し,他の生物から「貰った」遺伝子(水平転移遺伝子)を用いて,他の生物から「奪った」葉緑体(盗葉緑体)を自分の細胞内で制御する,異次元のキメラ融合の証拠が認められた。つまり,植物化の現場を直接検証できる材料が見つかった。

ラパザが盗葉緑体を獲得する際には,まず,藻類テトラセルミスの細胞を捉えて「貪食」する。この時,葉緑体だけがラパザの細胞に保持されるので,テトラセルミスの細胞核とそこに含まれるゲノムDNAも除去されるが,これはテトラセルミスの葉緑体を構築し機能させるための遺伝子があらかた失われることを意味する。

しかし,研究グループは,ラパザがその後,獲得した盗葉緑体を分割して娘細胞に分配することで増殖していくこと,さらに2週間が経過した段階でも盗葉緑体の光合成能力は損なわれないこと,また,盗葉緑体がもたらす光合成産物をラパザ細胞が利用していることを生化学的に確認した。

細胞内のタンパク質は「動的平衡」にあるとされ,常に新しいものに作り替えられているので,このように盗葉緑体の機能が維持されることは,必要なタンパク質が次々に供給され続けていることを示唆する。

そこで,ラパザの持つ発現遺伝子の全レパートリーを調べたところ,本来は植物ではないラパザの核ゲノムに,葉緑体の機能に関わる多数の遺伝子が存在していて,これにより作られるタンパク質が盗葉緑体の内部に送られて機能していることが強く示唆された。

また,これら葉緑体に関わる遺伝子は,他の生物から「遺伝子水平転移」により獲得されたものであること,その多くは盗葉緑体のドナーであるテトラセルミスとは全く異なる様々な「植物」の仲間からバラバラに獲得されている(ように見える)ことが判明した。

研究グループは今後,ラパザ細胞が世界中で進化の研究に用いられることが期待されるとしている。

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