名古屋大学の研究グループは,酸化物,グラフェン,窒化ホウ素などの二次元物質(ナノシート)を,1分程度の短時間で基板上に隙間なく配列して薄膜を作製する新技術「高速薄膜作製法」を開発した(ニュースリリース)。
グラフェンや無機ナノシートなどに代表されるナノシートは,高い電子・イオン移動度,高誘電性,透明性,高耐熱性など,従来のバルク材料とは異なる機能の発現が期待され,エレクトロニクス,エネルギー分野での応用が期待されている。
こうした優れた機能を最大限に引き出してデバイス化するためには,ナノシートを様々な基板表面に稠密配列し,薄膜を作製することが重要となる。
今までは,薄膜製造のため「ラングミュア・ブロジェット」などが適用されていたが,熟練した操作,複雑な条件設定が必要であることに加えて,1層の製膜に1時間程度を要していた。
これらの課題を解決し,ナノシートのデバイス開発,工業化を推進するために,ナノシートの高品質稠密配列膜を簡便かつ短時間で実現する新プロセスの開発が求められていた。
研究では,新規製膜技術を検討する中で,自動ピペットを使って,酸化物,グラフェン,窒化ホウ素などのナノシートのコロイド水溶液を基板に1滴滴下した後,それを吸引するという簡便な操作により,ナノシート同士が隙間なく稠密に配列し,約1分という極めて短時間で稠密配列単層膜の自動製膜に成功した。
この自動製膜による最適製膜条件,製膜機構の検討を行なったところ,エタノールを1~2%添加した希薄コロイド水溶液(濃度:0.02~0.05g/L)の利用が好適であり,コロイド水溶液の表面張力の低減,ナノシートの対流の促進により,ナノシート間の重なり,隙間の発生が抑えられ,効率的な配列制御が実現することが明らかとなった。
さらに,稠密配列単層膜作製の操作を繰り返すことで,ナノシートの厚み単位で制御された多層膜のレイヤーバイレイヤー構築が可能であることも確認した。
この技術は,酸化物,グラフェン,窒化ホウ素など,様々な組成,構造のナノシートに適用可能であり,かつ様々な形状,サイズ,材質の基材上に製膜できることを確認しており,極めて汎用性の高い製膜技術だとする。
また,自動ピペットによる簡便な滴下・吸引操作を基盤としており,専門的な知識,技術の必要がなく,ワンクリックで,4インチのウエハーサイズの大型製膜,少数ロットのオンデマンド自動製膜なども可能となるという。
研究グループは,開発した手法について,製造コストも大幅に削減でき,ナノシートの工業的な薄膜製作法,ナノコーティング法として重要な技術に発展すると期待している。