東北大学,米ロスアラモス国立研究所,中国北京理工大学,日本原子力研究開発機構は,光電子顕微鏡と光電子分光法,および第一原理計算によって六ホウ化ランタン(LaB6)表面への六方晶系窒化ホウ素(hBN)コーティングによる仕事関数低下を発見し,そのメカニズムを解明した(ニュースリリース)。
電子を空間中に放出するための電子源は,電子顕微鏡や半導体製造のための電子線描画装置,放射光施設等で利用される加速器などに利用されている。電子源の材料として現在は仕事関数の低いLaB6が広く使われているが,これよりも仕事関数の低い材料を開発できればより多くの電子放出が可能となり,電子源の高性能化につながる。
今回,研究グループは,LaB6表面にグラフェンおよびhBNをコーティングし,コーティング材料の種類によって仕事関数がどのように変化するか調べた。その結果,何もコーティングしていないLaB6表面に比べてグラフェンコーティング表面では仕事関数が増加したものの,hBNコーティング表面では仕事関数が減少したことを確認した。またhBNコーティングされた表面が最も多い電子を放出していることも実験的に確認した。
次にhBNコーティングによってなぜ仕事関数が減少するのかを明らかにするため,第一原理計算によって電子密度の計算を行なった。その結果,グラフェン/LaB6界面に内向き(固体内部方向)の双極子モーメントが生じるのに対し,hBN/LaB6界面では外向き(固体表面方向)の双極子モーメントが生じることがわかった。
外向きの双極子モーメントは電子を固体外に押し出そうとする力が働くため,これによって仕事関数が減少することが明らかとなった。今回のモデルに基づくと,理想的な清浄 LaB6表面の仕事関数はグラフェンコーティングでは2.2eVから3.44eVに増加する一方,hBNコーティングによって2.2eVから1.9eVに低下することがわかった。
また,このメカニズムは表面が少しだけ酸化されている実際のLaB6にも適用できることがわかった。理想的なLaB6表面と違い,現実のLaB6表面は大気中の酸素の影響でわずかに酸化されているが,そのような状況でもhBNコーティングにより発生した双極子モーメントによる仕事関数減少を確認できた。
今後,酸化されていない清浄LaB6表面にhBNをコーティングする方法の開発の必要があるが,研究グループは今回の成果がLaB6電子源からの電子放出量増加や電子源の長寿命化につながり,明るい電子顕微鏡や高効率な電子線描画装置の開発,放射光施設の運転経費削減などにつながるとしている。