北海道大学の研究グループは,歪んだ環状炭化水素である [1.1.1]プロペランを原料として用いて,剛直な構造であるビシクロ[1.1.1]ペンタン骨格を有する直線状リン配位子の合成に成功した(ニュースリリース)。
ジホスフィンはリン原子二つが架橋構造で連結した構造を有する化合物であり,リン原子のもつ非共有電子対が遷移金属へ配位結合をすることで,遷移金属錯体の配位子として機能することができる。中でも,直線状の構造を有するジホスフィン配位子はそれぞれのリン原子が独立に別の金属中心と配位結合し,金属同士を架橋する構造を形成できることから,超分子化学の分野で頻繁に用いられている。
その適用範囲は多岐にわたり,銅や金などを含む多核金属錯体だけではなく金属と配位子の連続構造を有する配位高分子への応用も行なわれており,金属と配位子の組み合わせや配位子の構造をチューニングすることによって新しい機能を有する材料が創成できる。
[1.1.1]プロペランは,三つのシクロプロパン環が一つのC–C単結合を共有した構造を有する炭化水素で,共有しているC–C単結合は電荷シフト結合を形成しているため反応性が高く,多様な官能基化が可能。
また官能基化により得られるビシクロ[1.1.1]ペンタン(BCP)骨格は,そのサイズや置換基の結合様式からパラ位に置換基を有するベンゼンの生物学的等価体と見なすことができ,既知の化合物中のベンゼン環をBCP骨格に置き換えることで新しい機能を持つ化合物を創成できる。
研究グループは,[1.1.1]プロペランの新しい官能基化反応として可視光による励起を起点とするジホスフィン化反応を開発し,二つのリン原子がBCP骨格を介して同一直線上に位置する直線状ジホスフィン誘導体の合成に成功した。
すなわち,ホスフィンオキシドとクロロホスフィンから生じる二つのリンラジカルの片方が[1.1.1]プロペランと反応し,さらにもう一つのリンラジカルと反応することで,高い収率で直線状ジホスフィン誘導体が生成することを見出した。
得られた直線状ジホスフィン誘導体を適切に誘導することで直線状リン配位子へと変換し,遷移金属錯体や希土類元素との配位高分子錯体の配位子として利用することにも成功した。得られた新規直線状リン配位子を含む錯体は新しい物性を有することが期待される。またこのジホスフィン化反応の反応機構解析も行なった。
研究グループは,BCP骨格の立体的な効果だけではなく,ジホスフィンの非対称性に由来した特性を持つ超分子の創成が可能であり,新しい機能性材料の開発へと展開できる成果だとしている。