京都大学,千葉大学,九州大学,北海道大学は,ペロブスカイト太陽電池の高性能化を可能にする三脚型の正孔回収単分子材料(Phosphonic acid functionalized triazatruxene,PATAT)を開発した(ニュースリリース)。
ABX3型(A:1価の陽イオン,B:2価の陽イオン,X:ハロゲン化物イオン)のペロブスカイト半導体を光吸収材料に用いたペロブスカイト太陽電池が塗布法で作製できる次世代の高性能太陽電池として注目されている。
しかし,光吸収によりペロブスカイト層で生成した電荷(正孔と電子)を選択的に取り出す電荷回収材料の開発がボトルネックとなっており,特に太陽電池デバイスの耐久性の観点から,添加剤フリーで機能する正孔回収材料の開発が求められている。
近年,カルバゾール誘導体にアルキルホスホン酸をアンカー基として導入し,透明導電酸化物膜に吸着させ,この単分子膜を正孔回収層として用いることで,比較的良好な光電変換効率と高い安定性を示すペロブスカイト太陽電池が得られることが報告されている。
単分子層として用いる材料はこれまで,π共役骨格に吸着基(アンカー基)を一つ導入した一脚型の分子に限られ,この場合,π共役平面は透明導電性基板に対して「立った」構造(垂直配向)になっていると考えられている。基板に分子が「寝た」水平配向で単分子膜を形成することができれば,電荷の取り出し効率の向上が期待される。
そこで研究では,p型のπ共役骨格平面に複数個のアンカー基を導入した「多脚型分子」を設計することで,基板とペロブスカイト層に対して分子が水平配向(寝た)した正孔回収単分子膜材料が開発できると考え,実際に一連のモデル化合物(PATAT)を合成した。
π共役骨格に基板への吸着基(アンカー基)を複数個導入したPATATは,透明電極基板上に溶液として塗ることで,分子のπ共役骨格平面が水平方向に寝た構造の単分子膜を形成することを,先端分光法による測定と理論計算結果により明らかにした。
実際に,一連のPATAT単分子膜を正孔回収層として用いてペロブスカイト太陽電池デバイスを作製すると,いずれの場合も21%以上の光電変換効率が得られ,最高で23%の効率を示した。
また,得られた太陽電池は不活性ガス雰囲気下で保管したデバイスは,2000時間後でも初期とほぼ同様の特性を保持し,連続光照射条件下でも,100時間で95%の特性を保持した。
この成果は多脚型構造をもつ正孔回収性分子の有用性を実証するものであり,研究グループは,ペロブスカイト太陽電池の開発分に多大なインパクトをもたらすとしている。