神戸大学と立教大学の研究グループは,希少金属を使用せずにCO2からギ酸を製造する方法を開発した(ニュースリリース)。
植物の光合成を担う酵素は,太陽光を用いてCO2を糖(グルコース)に変換する。光合成により長年地球の大気環境は一定に保たれてきたが,植物が持つ恒常化効果を人類活動(CO2排出と化石燃料の消費)が上回るようになり,人工光合成の開発が人類の存続には不可欠な状況となっている。
その研究の中で,金属元素,特に地殻にわずかしか存在しない希少金属が高い触媒活性を持つことがわかってきた。しかし,希少であるが故に地球規模の大きなスケールへ実用展開することが難しいという問題がある。
これまで研究グループは,高い還元力を有する非金属光増感剤の研究を行なってきた。最近では,分子構造を修飾することにより,紫外光よりもエネルギーの低い可視光を照射することでも高い還元力を獲得できる非金属光増感剤を開発している。これにより,可視光成分を主成分とする太陽光をそのまま利用できる光反応が実現可能となった。
研究では,これまでの光増感剤に加えてさらに別の非金属触媒を併用することで,可視光照射下でのCO2光還元を達成した。CO2をギ酸にするためには,CO2に電子を与える,すなわち還元する必要がある。しかしCO2は非常に安定な分子であり,還元するのは容易ではない。
今回研究グループは,カルバゾールを光増感剤として新たに創製し,この分子が可視光照射下で極めて高い還元力を獲得することを明らかにした。この光増感剤だけではCO2光還元反応(ギ酸生成反応)の効率は低くとどまりまったが,ここに非金属触媒を添加するとギ酸の生成速度が劇的に向上することを発見した。
最適化された条件においては,一分子のカルバゾールからギ酸を6500分子以上も生成できることが分かり,優れた触媒系が構築できた。
今回開発した反応では,犠牲還元剤としてビタミンC(アスコルビン酸)が必要であり,改善するべき点だとする。研究グループは今後,アスコルビン酸ではなく水を還元剤とする反応の開発を進める予定。さらに,ギ酸以外のエネルギー材料としてメタンやメタノールを製造するCO2光還元反応の開発も目指すとしている。