東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)らの研究グループは,宇宙空間を満たすガスの温度がまだ冷たい太古の宇宙において,ガスが非常に高温に加熱されている領域を発見した(ニュースリリース)。
宇宙に存在する全原子のうち約90%は,銀河間ガスとして10万Kから1000万K以上の高温状態で存在しており,研究者はこれを「Warm-Hot Intergactic Medium(WHIM)」と呼んでいる。しかし,銀河における星形成が最盛期であった100億年以上前には,この銀河間ガスのほとんどは1万K以下の比較的低い温度で存在していた。
研究グループは,ハワイにある直径10.3mのケックI望遠鏡で観測されたCOSTCO-Iの紫外線スペクトルデータを調べた。波長121.6nmの紫外線スペクトルは,銀河間ガス中の中性水素ガスに吸収されると,その吸収が影のように観測される。
2022年に発見されたCOSTCO-Iは,宇宙がまだ30億歳だった遠方宇宙において,現在の宇宙に存在するWHIMのような高温の銀河間ガス領域。ここは原始銀河団(銀河の巨大な集合体)で,その総質量は太陽質量の400兆倍以上,大きさは数百万光年にも及ぶ。
質量やサイズが大きいため,中性水素ガスも豊富な原始銀河団をこの波長で観測すると,通常は中性水素ガスによる吸収により大きな影が検出されるが,COSTCO-Iの位置では吸収の影が検出されず,そのガスは,当時の宇宙に一般的に存在する低温の銀河間ガスよりも,おそらく100万K以上高温であることが示された。
WHIMの性質と起源の解明は,天体物理学における残された謎の1つ。遠方宇宙において,銀河間ガスが加熱され,WHIMへと変化し出した領域を見ることができれば,低温の銀河間ガスから現在の宇宙のような沸騰した銀河間ガスへと変化するメカニズムを明らかにすることができる。
銀河間ガスは,銀河における星形成の材料を供給するガスの貯蔵庫だが,高温のガスと低温のガスでは,銀河へのガスの流入のしやすさが異なる。遠方宇宙において,WHIMの成長を直接研究することができれば,銀河の形成・進化を維持するガスのライフサイクルについて首尾一貫した描像を得ることができるようになるという。
研究グループは現在,すばる望遠鏡に搭載予定の新しい超広視野多天体分光器,すばる主焦点分光器(PFS)の開発にかかわっている。すばるPFSの観測によって,今回の研究の40倍以上の大きさの領域が観測される。その結果,何百もの原始銀河団におけるガスの性質が明らかとなるとしている。