産業技術総合研究所(産総研)は,プラスチック製品のX線散乱と近赤外光の吸収を同時に計測し,劣化状態を診断する技術を開発した(ニュースリリース)。
プラスチックの劣化はプラスチックを構成する高分子の鎖の構造や,さらには高分子の鎖が折り畳まれてできる結晶構造の変化が複合的に関与するため,劣化部位を複数の分析装置で計測する複合的な分析方法が求められてきた。
産総研は,光によるプラスチックの劣化診断技術の開発を進めており,今回この技術を拡張し,X線散乱と近赤外吸収を組み合わせて劣化機構を解明し,また同時計測を世界に先駆けて開発した。
今回開発した技術は,測定対象となるプラスチック内の同一箇所に対してX線と近赤外光を照射し,それらが試料を透過する際に,X線がどのように散乱するのかと,どの波長の近赤外光が吸収されるのかを同時に測定する。2種の手法により同一部位の測定を行なうことで,より精度の高いデータの収得が可能になるという。
X線散乱からは,プラスチックの結晶構造の大きさが分かる。一方,近赤外光の吸収からは,結晶を構成する高分子の鎖の長さが分かる。2つの計測データを組み合わせることで,高分子の鎖の構造変化が集まって,結晶構造の変化へとつながっていく様子を計測でき,最終的にプラスチック製品の強度や耐久性へ影響を及ぼす仕組みを詳細に解き明かすことが可能になる。
この計測技術をプラスチック製品の主要成分の1つであるポリプロピレンの構造解析に適用した。ポリプロピレンは「らせん」状に巻かれた高分子鎖が規則的に集まって結晶を作る高分子の一種。
劣化して脆くなったポリプロピレンのX線散乱のデータからは,ポリプロピレンの結晶の厚みが劣化によって長くなっている,即ち結晶構造の量が増加していることが示された。一方,近赤外光の吸収データからは,劣化に伴って,結晶部において高分子鎖が形成する「らせん」の数が増えていることが示された。
2つの測定データを合わせると,ポリプロピレンは劣化によって結晶構造内部の高分子鎖がより多くの「らせん」を形成することで結晶の厚みが増えること,これに伴い,柔軟で機械的な変形に強い非晶構造が減ってしまうために脆く壊れやすくなるという仕組みが解明された。
このような仕組みが分かると,今度は結晶構造の変化を抑制するような対策をとることでより長寿命なプラスチック製品を設計できるようにもなる。このような分析技術は他のプラスチックにも適用可能であり,新しい劣化診断技術として有望だという。
研究グループは今後,開発した分析技術を普及させるため,企業と積極的に連携したいとしている。