北海道大学の研究グループは,超高速動作に必要な高電圧下で高効率に動作するスピン発光ダイオード(LED)を開発した(ニュースリリース)。
スピンLEDは,電子スピンによる超低消費電力の情報記憶と,光によるスピン情報の高速伝送を実現する新しい光電変換素子であり,次世代の省エネルギー情報基盤を構築するために不可欠とされる。
スピンLEDの超高速動作を実現するには高電圧下での動作が必須だが,室温かつ高電界下では電子のスピン偏極情報が急速に失われるため,高い性能がこれまで実現していなかった。
研究では,InGaAs量子ドットと5nmの希薄窒化 GaAs(GaNAs)量子井戸を量子力学的にトンネル結合させたナノ構造を光学活性層に用い,スピン輸送バリアにAl0.3Ga0.7As/GaAs,スピン注入源にFe/MgOを用いたスピンLEDを作製した。
そして,円偏光電流注入発光(EL)分光により半導体中の電子スピン偏極率に対応するEL円偏光度(光スピン情報)を室温で測定した。また,室温で電界印加円偏光フォトルミネセンス(PL)測定を行ない,高電圧下でのスピンLEDの動作機構を調べた。
通常のスピンLEDでは量子ドットのEL円偏光度が約3%であるのに対して,今回開発したスピンLEDでは約7%のEL円偏光度が得られた。通常のスピンLEDではEL発光強度が増加すると,引き換えにEL円偏光度が低下するが,研究のスピンLEDでは高輝度発光と高円偏光度を両立することに成功した。
次に,高電圧下で高いEL円偏光度が得られるメカニズムを調べた。量子ドットへ注入される電子スピンが少ない弱励起条件では,PL円偏光度は電界によるスピン緩和が強く反映されて5%程度の低い値しか得られないが,励起光強度を増加するとGaNAsのスピンフィルタリング増幅が徐々に活性化されて,PL円偏光度が最大23%まで増加した。
その結果,スピンLEDの高電圧(高電流)動作においては量子ドット活性層への注入前に電子のスピン偏極は低下するものの,注入後にGaNAsのスピン増幅効果が働きスピン偏極が回復することで,高いEL円偏光度が得られることが分かった。
この成果により,今後はGaNAsのスピンフィルタリング増幅を活用したスピンフォトダイオードやスピンレーザーなどの光スピントロニクス素子の開発が急速に加速することが期待される。
一方,スピンLEDの性能を更に向上させるには電界によるスピン緩和を抑制する必要があることから,研究グループは,高電界下でスピン状態を保持しながら活性層まで輸送する電子スピン輸送技術の開発が待たれるといている。