豊橋技術科学大学の研究グループは,マイクロウェルで単一細胞を分離後,ウェル内の単一細胞を含む顕微鏡画像に深層学習を適用して,AIを用いた単一細胞検出を実現した(ニュースリリース)。
生命の最も基本的な単位である細胞の特性解明は,細胞の病気の理解や新規治療法の確立につながるため,単一細胞を分離し,機能を調査するための手法の開発に強い関心が寄せられている。
ただし単一細胞を物理的に分離するには,規格化する道具が必要となる。さらに単一細胞の検出は,人間の目と判断で行なわれることが多く,人間の関与が律速となり,データの取得を妨げていた。
最初に,光パターニングで作製した直径30µmのハイドロゲルを用い,内部に単一細胞を分離して捕獲する方法を開発した。微細加工のフォトリソグラフィーで規格化するハイドロゲルは,簡便かつ安定な利点を持つ。このマイクロウェル状の構造体により,細胞懸濁液からヒト単一細胞を分離捕獲した。
ハイドロゲルは生体適合性も高く,細胞培地中での長い培養時間に耐えることができ,細胞の挙動を観察する時間も延長できたという。
続いて,サイズ30µmのマイクロウェルアレイ内の単一細胞を分類し,細胞ありとなしの画像を教師データとして深層学習を行なった。学習済みの物体検出モデルは,入力画像を元に単一細胞を検出するようになり,平均適合率0.989(1.0に近いほど良い),平均推論時間0.06秒(短いほど良い)で単一細胞の存在を予測するようになった。
このアルゴリズムは,高い検出精度かつ実験時間の短縮を可能にし,ハイスループットな単一細胞分析の強化につながるものだとする。
最初は,入力データに一般的に用いられる観察法である明視野顕微鏡の画像を用いていたが,コントラストが高くないこともあり,検出能力の向上に限界があったという。性能は平均適合率0.801,平均推論時間0.09秒に留まっていた。
ここで細胞を蛍光染色し,入力データを蛍光顕微鏡画像に変更したところ,上述の平均適合率0.989に1200エポックで収束させることができた。このことは,入力データにコントラストが高く,人間でも見つけやすいデータを用意することが,AIにとっても重要なことを示している。
今回開発した単一細胞の分離と検出を,単一細胞の活動の自動観察に用いることで,人間の労力を減らしながら,正確で信頼性の高い細胞の自動検出ができる。研究グループは今後,シングルセル解析として,がん診断,免疫応答,創薬スクリーニングなどの種々の医用工学応用に展開したいとしている。