北海道大学と九州大学は,山口県西部に分布する長門構造帯の構成岩石(変成岩類及び花崗岩類)から初めてジルコンのU-Pb同位体年代測定を行ない,長門構造帯が国内最古級の地質体である黒瀬川構造帯に帰属する可能性を見出した(ニュースリリース)。
長門構造帯は従来,K–Ar系放射年代測定法などの解析結果により,国内では古い地質体であることが知られていたが,その年代値の正確度には議論の余地があった。
今回研究グループは,長門構造帯の北部(三隅地域)・中央部(台地域)・南部(豊ヶ岳地域)で地質調査を行ない,露頭または転石から岩石試料を採取して薄片を作製し,偏光顕微鏡で各試料の組織,含有鉱物の組み合わせ及び量比,ジルコンの有無,変質の度合いなどを観察した。
また,試料採取地点や観察結果を基に最適な分析試料を選定し,粉末にした試料からジルコンを分離した。分離したジルコンのカソードルミネッセンス像(電子ビームの照射によって固体内で励起された電子が発する光)を観察して成長組織を確認した。
そののち,LA–ICP–MS(レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析計(Laser Ablation Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)。レーザーの照射により固体物質を局所的に微小の塵にして,キャリアガスでプラズマに導入してイオン化させ,電場と磁場または電場のみによって同位体の重さごとに分けて精密に分析する装置)を用いてジルコンの局所精密U–Pb同位体年代測定を行なった。
その結果,4億6千万年前の火成岩を起源とする角閃岩,4億7千万年前~4億6千万年前の火成活動で形成したトーナル岩,24億6千万年前~4億年前の堆積岩を起源とする片岩と石灰珪質岩であることを解明した。
従来,長門構造帯は飛騨外縁帯の西方延長とみなされてきたが,この研究で見出された長門構造帯の変成岩類及び花崗岩類の含有鉱物の組み合わせとジルコン年代から,長門構造帯は日本最古級の地質体である黒瀬川構造帯の一部であることが示唆された。そして,長門構造帯と黒瀬川構造帯に産する日本列島初期の基盤岩類は南中国地塊の活動的縁辺域で形成した可能性が推察されたという。
この研究手法は正確なジルコン年代に基づいて帰属を検証できることから,研究グループは,日本列島の地体構造区分を刷新する可能性を秘めているとしている。