山口大ら,沈み込む鉱物の単結晶構造物性を解明

山口大学,高輝度光科学研究センター,東北大学,広島大学,岡山大学は,鉄(Fe)とアルミニウム(Al)の成分に富む中央海嶺玄武岩(MORB)組成から生成されるブリッジマナイト(下部マントルの主要鉱物)の単結晶合成に成功した(ニュースリリース)。

ブリッジマナイト(近似的な化学組成:MgSiO3)は,下部マントルを構成する主要な鉱物。

下部マントルは地球の体積の約6割を占め,ブリッジマナイトはその下部マントル体積の77%以上を占めると推定されることから,地球上で最も多く存在する鉱物だとされる。

沈み込むスラブ(下部マントルへ沈み込んだ海洋プレート)の主要成分であるMORB(中央海嶺玄武岩)組成から生成されるブリッジマナイト中のFeおよびAl成分(ともに18%程度)は,パイロライト組成で近似される通常の下部マントル組成から生成されるブリッジマナイトのFeおよびAl成分(ともに2~3%程度)よりもかなり多いことが分かっている。

このブリッジマナイト組成の違いによって,沈み込むスラブとその周囲の下部マントルとでは,ブリッジマナイトの結晶構造中へのFeとAlの導入メカニズムが異なり,その結果として,下部マントルの物性やレオロジーに不均一性が生じている可能性がある。

例えば,下部マントルでのLLSVPsと呼ばれる地震波速度異常は,このようなブリッジマナイト構造への陽イオン置換と深く関係しているかもしれないため,ブリッジマナイトにおいて単結晶を用いた精密な結晶化学的な検討が重要となる。

研究グループは,地球の下部マントルに相当する超高圧高温条件下において,MORB組成で期待されるFeおよびAl含有量をもつブリッジマナイトの単結晶を合成した。この単結晶試料のX線回折実験を行ない,得られた回折強度に基づいて精密な結晶構造解析を行なった。

電子線マイクロプローブ分析から精密な化学組成を決定し,ブリッジマナイト単結晶中のFeとAlの含有量を求めた。大型放射光施設SPring-8でのメスバウア分光法によりブリッジマナイト中のFeの原子価およびスピン状態を観測した。MORB組成で期待されるFeおよびAl含有量をもつブリッジマナイトの単結晶X線構造解析を行なったのは世界で初めて。

その結果,下部マントルへ沈み込んだ海洋プレート(スラブ)のうち最上部を構成するMORBすなわち海洋地殻で生成されるブリッジマナイトでは,電荷カップル置換というメカニズムのみによって,FeとAlが結晶構造中へ導入されることを明らかにした。

さらに研究グループは,弾性波速度の一つであるバルク音速を結晶学的アプローチから見積る方法論も提案。この手法は下部マントル中での地震波特性を知る有力な手掛かりになるとしている。

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