東北大学の研究グループは,汗の中に含まれる重要な生体健康因子であるナトリウム,尿酸などを高感度かつ選択的に検出・モニタリングできる多機能ファイバ・テキスタイルの開発に成功した(ニュースリリース)。
ここ数十年の間に,主にデジタル印刷技術や従来のシリコン製造技術によって開発されるウェアラブルエレクトロニクスとして,布地に電子技術を組み込むことが実現されてきた。しかしそれらは,一般的には,既存の布地や肌に硬い電子パッチを直接貼り付けるもので,体に触れる面積はわずかであり,アクセスできるデータの種類も限定されている。
衣服は,繊維で編まれたテキスタイルからできていて,人体の広い面積に触れるため,重要な生体情報や周囲環境情報を大量に含んでいることから,人が着用している衣服の機能性ファイバ・布地自体から生体情報や環境情報を収集・分析できるように開発することが重要な課題になってきた。
研究では,汗の分析が可能となる多機能ファイバ・テキスタイルを開発した。独自の技術である熱延伸プロセスを利用することで,「金太郎飴」のように,必要な構造や機能を持つ成型物(プリフォーム)を加熱しながら引き伸ばし,スケールダウンしながら構造と機能を維持したまま,人の毛のような細いファイバを大量生産することが可能となった。
この多機能ファイバが従来の繊細かつ柔軟な品質を維持し,さらに電気化学センシングと液体注入の機能を組み合わせることにも成功した。汗の中の様々な化学物質を電気化学的にセンシングするため,カーボン複合材料を電極として利用した。
また,このカーボン複合材を多機能ファイバの中に集積し,高感度センシングを実現するため,新たな多機能ファイバの構造を設計し,熱延伸により製作した。さらに,レーザー加工技術も併用し,ファイバの中に集積した電気化学センシング電極や微小流路をファイバの側面から露出することができ,ファイバの先端のみならず側面も機能化することが可能となった。
さらに,汗の中の重要な生体健康因子,例えば電解質であるナトリウム,代謝産物である尿酸を高感度かつ選択的に検出するため,ナトリウムイオノフォアなどの新しい感応膜を合成し,ファイバ側面に露出した電極に付与するなどの新しい表面化学修飾方法も開発し,バイオセンシング機能を実現した。
また,この多機能ファイバを衣服の中に織り込むことで,汗をall-in-fiberで測定し,ナトリウムや尿酸など多様な成分を同時にモニタリングすることができるようになった。
研究グループでは,健康状態に関する貴重な知見をシームレスに得られることが期待されるとしている。