慶應義塾大学と理化学研究所は,高Q値単結晶微小光共振器を用いて生成した20GHzを超える超高繰り返し光周波数コム(マイクロ光コム)を連続的かつ広範囲に制御する手法を開発した(ニュースリリース)。
直径数mm以下の高Q値微小光共振器を用いて発生される光周波数コムはマイクロ光コムとよばれ,小型かつ省エネルギー動作が可能な次世代型の光周波数コム光源として期待されている。しかし,その一方で発振器となる共振器素子の小ささゆえに性能の緻密な制御が難しいという課題があった。
研究グループではフッ化マグネシウム単結晶から作製した直径3mm程度の高Q値微小光共振器を用いて約23GHzの高繰り返し周波数をもつマイクロ光コムを発生することに成功し,光スペクトルと出力パワーといった基本性能を大きくチューニングする手法を実証した。
また,マイクロ光コムの制御性には共振器材料の熱的物性が大きく関わっていることを発見し,そのメカニズムを定量的に明らかにした。
マイクロ光コムは,微小光共振器に特殊な細線導波路(光テーパファイバ)を用いて励起用連続光レーザーを入力すると,光カー効果によって共振器内部で次々と波長変換が起こり,光周波数コムが形成される。これを同じ導波路を用いて取り出すことでなだらかな包絡線をもつ光スペクトルが得られる。
マイクロ光コムを構成する全ての光周波数は中心周波数,繰り返し周波数,キャリアエンベロープオフセット周波数(オフセット周波数)とよばれる三つの周波数から決まることが知られている。
まず,研究グループはペルチェ素子を用いて微小光共振器の温度を制御することで,熱光学効果と熱膨張効果の二つの異なる効果により,光周波数を広範囲かつ連続的にチューニングできることを示した。
実験的に得られたチューニング効率は理論的に予測される値とよく一致した。特に中心周波数は48GHz以上変化しており,繰り返し周波数の200%以上の周波数帯域でチューニング可能であることが示された。さらに電気的な帰還回路を組み合わせることで,スペクトル幅を1.5THzから2.4THzまで可変とすることに成功した。
またこのとき,温度制御にともなってマイクロ光コムの出力パワーも三倍以上大きく変化する様子を確認した。この現象を理解するために,熱効果を考慮した定量的な数値シミュレーションにより,微小光共振器の熱膨張効果が出力パワーに大きく影響を与えていることが分かった。
この効果により光スペクトルと出力パワーの同時チューニングが可能になると期待される。研究グループは,特に分光用途や低雑音マイクロ波発生源などの高い精度で光スペクトルと出力パワーの制御が必要とされる応用において重要な意義があるとしている。