鳥取大学の研究グループは,対光反射現象を利用した意思伝達システムにおいて,左右の目に投影する刺激を異なるものとすることで一度に提示可能な刺激パターンを増加させる新方式を提案した(ニュースリリース)。
脳と機械をつなぐ技術であるブレイン―マシンインタフェース(BMI)の実現手法の1つとして,一定周期で点滅する物体を見つめた際の視覚野の応答である定常状態視覚誘発電位(SSVEP)を頭皮上に設置した電極から計測し,注視物体を識別するものがある。
SSVEPを用いたBMIは眼球を動かすことができない人にも適用できる可能性があり,他のBMI手法と比較して情報伝達率もが高い。一方で,頭皮上に電極を複数設置し,安定して脳波計測を行なうためには多くの課題がある。
ヒトの視覚認知機能の研究において,瞳孔径の変化はヒトの認知的な注意の影響を受けることが明らかになり,この特性をもとに,対光反射を利用した非接触なBMIが提案された。
これは,複数の注視候補の輝度を異なる周波数で変調させ,対象者の瞳孔径がどちらの刺激に同調して拡縮しているかを計測するもの(以下,瞳孔インターフェース)。
瞳孔インターフェースは,意思伝達に眼球運動が必要なアイトラッキング技術とは異なり,眼球を動かすことができない人でも対光反射さえ残存していれば利用できる可能性がある。
しかしながら現在の瞳孔インターフェースは一度に提示可能なパターン数が限られるという問題があった。これは生体の機械特性上には限界があり,対光反射現象が生じる点滅周波数に上限があるため。また,通常のディスプレーは1秒当たりのリフレッシュレートが固定されるため,利用可能な刺激周波数は限られる。
そこで研究グループは,少数の周波数しか利用できない状況でも多数の注視対象を用意することができれば,瞳孔インターフェースの利用可能性が広がると考えた。
点滅する光を見つめた際の対光反射を利用した意思伝達システムにおいて,両眼に独立な刺激を行なう手法を提案し,通信チャネル数の増加に成功。市販のVRゴーグルに搭載された瞳孔径計測機能を用いて,同一視野内に表示した最大15種類の光刺激のうち被験者が注視している対象を推定することができた。
また,あらかじめ複数の周波数を混合させて両眼に入力する場合(事前混合方式)と比べて,両眼に異なる周波数を入力し後から脳内で混合させる場合(脳内混合方式)では分類において雑音となる信号(ビート周波数)を低減できることを示した。
研究グループは,自らの意思で視線を動かすことができない人のための意思伝達システムの開発につながることが期待されるとしている。