京大ら,瞳孔の大きさから実行機能の向上を検証

京都大学と筑波大学は,運動時の瞳孔の動態と実行機能向上効果の関係を検証し,軽運動で起こる実行機能の向上は,運動中の瞳孔の大きさから予測できると明らかにした(ニュースリリース)。

運動には認知機能を高める効果があるとされる。しかし,運動中にヒトの脳内でどのような応答が起こっているのか,その詳細は未解明のままだった。

研究グループは,超低強度運動中に覚醒に関わる気分変化と相関して瞳孔が拡大すること,この拡大効果は青斑核の活動が関係している可能性が高いことを明らかにし,運動中の覚醒の神経回路活性化を示す指標として有用であることを報告している。これらを踏まえ,超低強度運動中の瞳孔動態から,超低強度運動が前頭前野の実行機能を高める神経基盤を検証した。

実験では,事前に参加者の持久性体力を自転車エルゴメータにより測定し,各参加者の最高酸素摂取水準の30%に相当する個々の相対的運動負荷を算出した。

各参加者にはその後,10分間の「超低強度運動」と「安静」の2条件をそれぞれ別の日に行なった。参加者が乗る自転車の前に置いたスクリーンにアイトラッカーを取り付け,運動中と安静中の瞳孔径をモニターした。

さらに,10分間の運動・安静の実施前と実施6分半後にストループ課題を行なってもらい,実行機能を反映する「ストループ干渉処理能力」を評価した。また,その最中の前頭前野の活動を機能的近赤外線分光法(fNIRS)により計測した。

その結果,超低強度運動は,安静と比較してストループ干渉処理能力を向上させることが分かった。また,運動中には瞳孔の拡大がみられ,その度合いはストループ干渉処理能力の向上と有意な相関関係があった。

さらに,運動中の瞳孔拡大が,超低強度運動によるストループ干渉処理能力向上効果を有意に媒介していることが示された。この知見は,瞳孔拡大から予測される青斑核・ノルアドレナリン神経に代表される覚醒神経回路の活性化が,超低強度運動が実行機能を高める神経基盤であることを示唆している。

また,ストループ課題実施中の左背外側前頭前野の活動から,運動中の瞳孔拡大が実行機能向上効果を反映する背景には,超低強度運動中の脳内ノルアドレナリン神経の活性化と,それによる背外側前頭前野への刺激があると想定された。

研究グループはこの成果により,運動と脳の関係の解明だけでなく,瞳孔測定が運動による脳機能向上効果のバイオマーカーとなることも期待されるとしている。

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