基生研,内耳の有毛細胞とニューロン活動を顕微観察

基礎生物学研究所の研究グループは「対物レンズ傾斜顕微鏡」を作製し,ゼブラフィッシュ仔魚の耳石器官の有毛細胞と前庭神経節ニューロンの活動を生体内カルシウム(Ca2+)イメージングによる可視化に成功した(ニュースリリース)。

頭部の傾きや動きの方向は,それによってもたらされる力の向きに合致した方向の感覚毛の極性をもつ有毛細胞によって受容されると考えられているが,内耳の中にある有毛細胞の活動を頭部運動中に調べることは極めて難しく,個々の有毛細胞が頭部運動中に生体内でどのように活動するのかは調べられていなかった。

また,これまでの研究では計測対象となる細胞を特定しながら一度に多数の細胞の活動を計測することが困難だったため,頭部の傾斜や運動の方向についての情報が,どの前庭神経節ニューロンによって脳へ伝達されるのかについても詳しく理解されていなかった。

そこで研究グループは,頭部の傾斜や振動中に神経活動を計測することが可能な「対物レンズ傾斜顕微鏡」を作製して,生体内イメージングによる神経活動の可視化を試みた。有毛細胞やニューロンの活動は,Ca2+と結合すると蛍光強度が上昇するセンサーを使ったカルシウムイメージングによって可視化できる。

生物試料を傾斜/振動させながらイメージングを行なうために,電動回転ステージやスピンディスク共焦点スキャナ,カメラ等を組み合わせた「対物レンズ傾斜顕微鏡」をデザインした。

電動回転ステージでゆっくりと大きな角度で回転させると生物試料には静的な傾斜刺激が与えられ,すばやく小さな角度で往復させると振動刺激が与えられる。この顕微鏡を用いて試料の蛍光をカメラで撮影した。

まず,蛍光ビーズを試料として撮影したところ,ステージ回転中に生じる光学系の歪み等によって大きなアーティファクト(生体応答に起因しない人工的な蛍光強度変化)が発生した。

そこで,蛍光強度比イメージングを導入した。この手法では,分光装置(イメージスプリッティング装置)を用いて異なる色の画像を同時に取得し,その蛍光強度比を計算することでアーティファクトを小さく抑えることができる。

実験では,体長4mmほどのゼブラフィッシュ仔魚の耳石器官の有毛細胞と前庭神経節ニューロンの活動を,生体内カルシウム(Ca2+)イメージングによる可視化に成功した。その結果,頭部の傾きや動きの「方向」や「動き方」が,異なる場所の有毛細胞・前庭神経節ニューロンによって受容し分けられることがわかった。

研究グループは,ヒトの耳石器官でも同様の仕組みで頭部の傾きや振動が受容し分けられていることが示唆される成果だとしている。

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