東芝は,可視光の下では無色透明で視認性がなく,ブラックライトなどで紫外光を照射すると発光する独自の「透明蛍光体」技術において,従来の蛍光体より溶解性を高め透明度を向上させるとともに赤色の発光強度を約6倍に高めることに成功した(ニュースリリース)。
蛍光体は今日,様々な製品に使われているが,小さなチップで構成されるミニ/マイクロLEDやマイクロLEDディスプレーといった分野では,現在一般的に使用されている無機蛍光体では色再現能力に限界があり,発光強度が弱いことが課題となっていた。
有機蛍光体は,発光に必要な電子などを多く含むレアアースが主な原料に用いられるが,同社は,レアアースの1つで,ポリマーに溶解することにより透明化でき,色純度が高く,発光スペクトルの色相が蛍光体の濃度や溶解する媒体の性質に依存しないユーロピウム(Eu)に着目。2007年,他の有機蛍光体では困難であった,優れた溶解性・発光強度・耐久性を持つEuの化合物(Eu(III)錯体)を見出した。
従来の蛍光体は,溶解せずに微粒子状で存在するため,文字などパターンを印刷したものが,角度や光の当たり具合によってうっすらと見えてしまう。また,微粒子の粒径のばらつきにより素子特性のばらつきが発生したり,微粒子の光散乱が素子の特性を落としてしまうことが課題となっていた。
そこで同社は,Eu(III)錯体の発光強度と溶解性を増大させる独自の分子設計手法である「互いに異なる2種類以上のホスフィンオキシドをEu(III)イオンに配位させる分子設計コンセプト」を活用し,新しいEu(III)錯体を開発した。
今回,「非対称構造テトラホスフィンテトラオキシド配位子」を発見し,同配位子を有する新規Eu(III)錯体複核錯体を創成し,「透明蛍光体」の発光強度のさらなる増大を実現した。発光強度は従来技術の約6倍だという。このEu(III)錯体をポリマーに溶解すると,可視光下で完全に無色で透明性が高く,紫外線光下では色純度が高い赤色に強発光する「透明蛍光体」を得ることができる。
なお,テトラホスフィンテトラオキシド配位子は,2種類のホスフィンオキシドを有し,2つのEu(III)イオンをブリッジする機能がある。「①それぞれのEu(III)イオンに対して異なる2種類のホスフィンオキシド骨格が配位」「②2つのEu(III)は互いに異なる配位環境」という新しい構造により,発光強度と溶解性の両立が可能だとしている。
同社ではアプリケーションとして,ミニ/マイクロLED,ミニ/マイクロLEDディスプレー,深紫外光(222nm)の可視化,高度なセキュリティ印刷,有害物質センシングなどへの応用を想定している。