名古屋大学らの研究グループは,X線偏光観測衛星「IXPE(Imaging X-ray Polarimetry Explorer)」によるブラックホール連星「はくちょう座X-1」の観測において,銀河系内のブラックホールと恒星の連星系の観測から,ブラックホール近傍から放射されるX線がわずかに偏光していることを発見し,ブラックホール近傍にある高温のプラズマ(コロナ)の位置と形状を明らかにした(ニュースリリース)。
ブラックホール連星系のブラックホールの周辺には,恒星からの物質がブラックホールの強い重力に引かれてできる渦巻き状の高温の「円盤」と,円盤よりも高温の「コロナ」と呼ばれるプラズマが存在する。
今回,研究グループは,2021年12月9日に打ち上げられた世界初のX線偏光撮像衛星であるIXPEを用いてブラックホール連星系はくちょう座X-1を観測したところ,X線の振動方向がブラックホールから放出される「ジェット」と呼ばれるプラズマ噴出流の方向にわずかに偏っている(偏光している)ことを発見した。
このX線の偏りとその強さから,コロナはジェットの方向には存在せず,円盤の両面を覆っているか,もしくは円盤の内縁とブラックホールとの間に位置していると考えられるという。
このようなブラックホール近傍の物質の位置関係は,従来のX線望遠鏡では遠すぎて分解できず,偏光を観測することで初めて明らかになった。研究グループはこの研究成果について,ブラックホール近傍における強重力場下の物理の検証や,ブラックホールの自転速度の測定につながると期待できるとしている。