横浜国立大学の研究グループは,導電性を有するフレキシブルな3次元造形物を3Dプリンタで作製することに成功した(ニュースリリース)。
ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)は,産業的に最も成功している導電性高分子の一つだが,3次元的な造形が困難だった。最近では材料押出(MEX)法を用いた3Dプリンタの活用が試みられているが,造形精度が材料を押し出すノズル径に制限されるため造形精度に限界があった。
そこで研究では,最も高精細な3Dプリント技術である光造形に適したPEDOTを基礎とする光硬化性樹脂および造形プロセスを開発したが,PEDOT単独は青黒い固体であるため,光造形が困難という問題があった。
先行研究では,PEDOTの前駆体である無色透明な3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)と光硬化樹脂を混ぜ合わせ,光造形にて任意の形状を作製したのち,造形物内部のEDOTをPEDOTへ後処理で変換することで導電性を有する3D構造体の作製に成功している。
さらに,フレキシブルな造形物を作製できる可能性も示唆しているが,その導電性は最大でも0.04Scm-1と配線材料に用いるには低く,EDOTの量を増やすと造形物の構造が崩れるといった欠点があった。
研究では,後処理の過程に注目した。ここでは塩化鉄を用いてEDOTをPEDOTへ変換するとともに,塩化鉄でPEDOTのドープ処理を行なっている。研究では,先行研究が1段階で行なっている酸化重合とドープ反応を,EDOTをPEDOTへ変換する酸化重合反応と,ドープ処理の2段階に分けた。
ドープ処理はp-トルエンスルフォン酸(PTSA)を用いた結果,EDOTの含有量を半分以下に減らしたにもかかわらず,16Scm-1と100倍以上の導電性の向上させることに成功した。また,光硬化性樹脂の成分として柔軟な造形物が得られるポリエチレングリコール(600)ジメタクリレートを用いたことにより,後処理後にピンセットで屈曲可能なフレキシビリティも確認した。
ウェアラブルデバイスを作製するうえで,配線を3次元化できれば素子の高密度化が実現できる。研究では,3D構造体の造形が可能な光造形法に着目し,3D構造体を形成できる光造形用樹脂および処理法を開発し,柔軟性と導電性を併せ持つ3D構造体やフレキシブル配線を実証した。
研究グループは,今後,さらなる導電性の向上や有機デバイスなどの電子素子と組み合わせることで,さまざまなウェアラブルセンサーや医療デバイスの実現が期待されるとしている。