大阪大学の研究グループは,X線偏光撮像衛星IXPE(Imaging X-ray Polarimetry Explorer)による超新星残骸カシオペア座A(Cas A)の観測により,世界で初めて超新星残骸からのX線偏光検出に成功した(ニュースリリース)。
超新星残骸では衝撃波により粒子が光速近くまで加速されるが,その加速機構の詳細に関しては未だ解明されていない。この衝撃波は様々な波長帯で観測することができるが,中でもX線放射は衝撃波で加速された最もエネルギーの高い粒子によって生じるため,X線帯域での観測は加速機構の最も本質的な部分を捉えることができる。
特に,粒子の運動は磁場との相互作用に影響されるので,この加速現場の磁場構造は加速機構を解明するための重要な鍵の一つとなる。従来のX線観測は撮像・分光・測光が主軸であり,これらの観測手法では磁場の測定が困難だったが,磁場との相互作用で生じるX線は磁場と垂直な方向に偏光するため,偏光観測は直接的に天体の磁場構造を観測することができる。
そのため,X線天文学の黎明期からX線偏光観測はその重要性が主張されていたが,測定が技術的に難しいこともあり,長らく観測的進展がない状態が続いていた。しかし,近年の装置開発の発展に伴い,2021年12月に世界初となるX線偏光撮像衛星IXPEが実現し,翌年1月に超新星残骸Cas Aの観測を実施した。
この観測データは各国で解析され,Cas Aから世界初となるX線偏光の検出に成功した。超新星残骸の衝撃波近傍では星間ガスが掃き集められ,衝撃波面に沿った円弧状に揃った磁場が形成されていると予想されていた。この場合,磁場との相互作用で生じるX線は衝撃波面に垂直な方向に高い偏光度を有することが期待されるという。
しかし,今回の偏光観測はこの予想とは異なり,衝撃波近傍の磁場は全体的にみて中心から放射状に伸びていることが明らかになった。この結果は他の波長帯の偏光観測とも一致しており,X線帯域でも同様の結果が得られたことは,衝撃波のごく近傍で既に磁場の方向が衝撃波面と垂直に切り替わっていることを示唆するとする。
また,偏光度が低かったことから,磁場は一律に揃っているわけではなくある程度入り乱れていることも示しており,これまでは未知の領域だった加速現場の磁場構造を明らかにしたと言えるとしている。
IXPEは Cas A以外の超新星残骸も観測予定であり,研究グループは,それらも含めて今後も粒子加速機構の解明に繋がる観測結果が期待されるとしている。