東京大学の研究グループは,植物の主たる窒素源である硝酸イオンと結合することで活性化される転写因子NLP7が,転写カスケードを介して葉緑体の発達や光合成活性の維持に関わっていることを明らかにした(ニュースリリース)。
植物の主たる窒素源である土壌中の硝酸イオンは,植物に吸収されたのち,アミノ酸合成とそれに引き続く種々の有機窒素化合物(タンパク質,核酸,クロロフィルなど)の生合成に利用される。
一方で,硝酸イオンは転写調節にも関わっており,NLP転写因子群と直接結合することでNLP転写因子を活性化させ,様々な遺伝子の発現パターンを変化させて,硝酸シグナル応答と呼ばれる現象を引き起こす。窒素同化の活性化,地上部の発達促進,側根形成の促進などが硝酸シグナル応答として起こることが知られているが,硝酸イオンのシグナルとしての生理的役割の全容は未だ不明だった。
今回,研究グループは,シロイヌナズナにおいてHB52とHB54という二つの相同な転写因子遺伝子がNLP7転写因子の標的遺伝子であったことから,HB52とHB54の機能を調べて,HB52とHB54が葉緑体の発達や葉緑体機能の維持に重要な遺伝子の発現を調節していることを明らかにした。
また,HB52転写因子とHB54転写因子は光損傷を受けた光合成タンパク質の除去を担う葉緑体プロテアーゼFtsHのFtsH2サブユニット遺伝子(VAR2)の発現促進において重要な役割を担っており,このことと一致して,硝酸シグナルと光照射が協働してHB52遺伝子とHB54遺伝子の発現を促進して,光照射下での光合成装置や光合成活性の維持に貢献していることを明らかにした。これらによって,葉緑体の発達調節と光合成活性の維持という硝酸シグナルの新たな役割が明らかになった。
さらに,この硝酸シグナルの新たな役割に基づき,NLP7,HB52あるいはHB54の過剰発現によって硝酸シグナル伝達を強化すると強光に対する適応力が増大すること,この過剰発現の効果は窒素源が少ない時ほど明瞭であることも明らかにした。
研究グループはこの研究の成果が,窒素栄養が少ない環境でも光障害が起こりにくい植物の作出の作出の契機となることが期待されるとしている。