東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)らの研究グループは,米国立天文台ハワイ観測所において9月21日から26日にかけて行われた超広視野多天体分光器PFS(Prime Focus Spectrograph)の試験観測で,意図的に配置したファイバーを通して多数の星からの光を同時に分光器で観測しスペクトルを取得することに成功した(ニュースリリース)。
2024年の科学運用開始を目指し開発が進められているPFS は,ハワイ・マウナケア山頂域にあるすばる望遠鏡に搭載される。すでに稼働中の超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Cam(HSC)と共に,すばる望遠鏡の観測効率を飛躍的に向上させる。
PFSが完成すると,約2400本の光ファイバーを用いて,多数の天体を同時に分光観測することが可能になる。PFSが一回の露出で記録できる波長範囲はとても広く,近紫外域から可視光域を越えて近赤外域まで及び,天体の詳細な運動や化学的性質,年齢など,さまざまな特徴を調べることができる。
研究グループはは9月21日から26日にかけてすばる望遠鏡で行なった試験観測で,ファイバーが天体に対してどの程度正確に配置できているかを調べるためにラスタースキャンを実施した。
目的の天体が写ると予想される主焦点装置(PFI)焦点面上の位置にファイバーをセットした上で望遠鏡の指向位置を少しずらしては分光器でスペクトルを取り,この動作を格子状に並んだ指向位置でデータが撮れるまで繰り返す。
その結果,実際のファイバーの位置と天体が実際に写っている位置のずれを測定することができる。その結果,最終的に装置がファイバーをターゲットに極めて正確に配置できたことを確認した。
PFSはファイバーが約2400本もあるが,PFSの視野のなかでファイバーが占める総面積の比は0.01%(1/10,000)程度であり,やみくもにPFSを空に向けてもファイバーが天体の光を捕まえることができない。
今回研究グループは,星に対するファイバー配置精度はまだ満足のいくレベルに達していないものの,PFSを使って目標天体の光をとらえた。これは,エンジニアリング・ファーストライトを達成し,装置のコミッショニングは次の段階に入ったことを意味するという。
PFSのサブシステムの運用は2024年頃に開始される予定。研究グループは,今後PFSで作成する宇宙の3次元地図から,宇宙を占めるダークエネルギーの正体の解明という最終ゴールを目指すとしている。