早稲田大学,大阪大学,理化学研究所,京都大学,岡山大学は,様々な元素の分布を可視化する「放射化イメージング」を提案し,その原理を実証した(ニュースリリース)。
投与された薬が体の中のどこにどれだけ集積しているか,移動しているかがわかると,病気の診断や治療,創薬に役立つ。今回研究グループは,抗がん剤として用いられるシスプラチン,ドラッグデリバリーシステム(DDS)キャリアとして期待される金ナノ粒子とプラチナナノ粒子,造影剤として用いられるガドテリドールを試料としたが,これらの薬物はそのままではイメージングできない。
そこで,薬物に熱中性子をぶつけると一部の原子核が活性化し,X線ガンマ線を出す「放射化」現象に着目。ここで生ずるX線ガンマ線は薬物に含まれる元素に固有のエネルギーをもち,また半減期と呼ばれる特徴的な時間スケールで減衰するため,エネルギーと時間の両面から,「何」が「どれだけ」含まれるかを高精度で可視化できる。
これまでの放射化分析では,スペクトル情報のみを用いてppm以下といった極微量な元素を正確に同定する。ここに独自のイメージング技術を加えることで,薬物の種類だけでなく空間分布を追跡できる。
一方,現在,核医学診断で用いられるSPECTは概ね300keV以下のガンマ線のみ,またPETは511keVのガンマ線のみを対象としたイメージング手法のため,広エネルギーのX線やガンマ線を同時に可視化できる新しいカメラの開発が不可欠となる。
研究では薬物ごとに必要な熱中性子の照射量と生成される核種について調査し,中性子照射実験を行なった。金ナノ粒子,シスプラチン,プラチナナノ粒子,ガドテリドールに照射を行ない,薬物から放出されるX線ガンマ線スペクトルを取得し,薬物が放射化されたことを実証した。
これらの元素特有のX線ガンマ線を可視化するため,独自に開発した「ハイブリッド・コンプトンカメラ」を用いたイメージングを試みた。コンプトンカメラは入射ガンマ線の到来方向を決定できるが,エネルギーの低いX線はイメージングすることができない。
ハイブリッド・コンプトンカメラは散乱体の中心に3×3mm程度のピンホールを開けることで,数十キロ電子ボルトから数メガ電子ボルトの撮像を一度に可能とし,すべての薬剤について20分以内の短時間でイメージングに成功。イメージングを繰り返すことで,薬物の移動を把握することができる。
これまで可視化ができなかった薬物でも体の外からイメージングすることが可能となるため,研究グループは,診断・治療の新しい可視化ツールとして幅広い応用が期待されるとしている。