日本電信電話株式会社(NTT)は,液体中の所望の位置で粒子や粘性を計測できる光ファイバを用いた超高感度センシング技術を実現した(ニュースリリース)。
従来,液体に直接挿入できる簡便なセンサとして,水晶振動子センサが知られている。水晶振動子が液体に浸ると,液体の密度や粘性の影響を受けて振動特性が変化する。また,粒子などの物体が付着した場合も振動特性が変化する。従って,振動特性の計測により液中の情報を読み取ることができるが,空間分解能と検出感度の改善が課題だった。
今回作製したセンサ素子は,2つのボトルが連結した形のガラス素子から構成される。各ボトルの長さは720μm,最大径は125μm,連結部の直径は115μm。2つのボトルの機械共振(膨張・収縮運動)は連結部を介して互いに結合している。
上方ボトルに光ファイバを近接させることにより,上方ボトルを周回する光共振を励起できる。この光共振と上方ボトルの機械共振は空間的に重なるため,機械振動を光で読み取ることができる。
また,上方ボトルと下方ボトルの機械振動は結合しているため,下方ボトルの機械振動も上方ボトルの光共振を介して光ファイバで読み取ることができる。この連結ボトル構造を下方ボトルのみ液体に浸すことにより,光を液体にさらすことなく液中の情報を高感度に検出することができる。測定では,下方ボトルの振動が支配的な低周波モードと上方ボトルの振動が支配的な高周波モードが観測される。
今回作製したセンサ素子で粒子(質量)を検出する場合,質量の検出限界は振動周波数の揺らぎ量によって決まる。すなわち,周波数揺らぎが小さいほど,小さな質量まで検出することができる。この周波数揺らぎは振動測定のシグナルノイズ(SN)比に依存するため,機械振動を強く励振してSN比を稼ぐほど,検出感度は向上する。
実験では波長の異なる2種類の光をファイバに導入し,一方の光で振動を励振し,もう一方の光で振動を検出することにより,SN比と周波数揺らぎ量の関係を調べた。SN比が大きくなると周波数揺らぎ量が減少し,より小さな質量(7.6×10-12g)まで検出できることが分かった。
この検出感度は,従来の水晶振動子センサよりも3桁程度良い値であり,単一のバクテリアを検知できるレベルに相当するという。更に,水と油が相分離した液体での実験により,所望の位置における液体の特性を評価できることを確認した。
研究グループは,この技術が,液体中の所望の位置での高感度分子検出,不均一溶液の濃度分布マッピング,ゲルなどの複雑液体における局所粘性評価など,従来センサでは困難な応用展開を可能にするとしている。