大阪大学,摂南大学,印タタ基礎研究所中国上海交通大学,ルーマニア極限光基盤核物理学研究所は,強いレーザー光を回折格子に照射させ,表面プラズモン共鳴条件でのみ,生成される高エネルギー電子が大幅に増大することを初めて明らかにした(ニュースリリース)。
表面プラズモン共鳴は入射光が物質表面近傍に存在する電子に作用し,その運動で作られる電場と,入射光自体の電場が共鳴することで,局所的に高電場が生成する。
回折格子を用いてこの現象を発現させることが広く行なわれているが,しかしこれまでは強い強度のレーザー光を照射すると,回折格子のような微細構造は共鳴が起こる前に破壊され,ナノフォトニクスで見られている現象とは同じとはならないと考えられていた。
これまでに回折格子に高強度レーザーを照射して生成する高エネルギー電子やX線が増大することを報告する例はあったが,表面プラズモン共鳴によるものかは不明だった。
研究では,高強度レーザーとして広く使用されるチタンサファイアレーザーの波長である800nm近傍に共鳴条件をもつ回折格子と,共鳴条件から完全に外れた回折格子をそれぞれ作製し,高強度レーザー光を照射する実験を行ない,共鳴条件を満たす場合のみに生成される高エネルギー電子の生成量が,非共鳴条件での照射よりも数倍増大する結果を得ることに成功した。
また非共鳴条件においては,構造のない平板に照射した場合に比べ増大が確認され,この2つの結果を比べることで表面プラズモン共鳴の役割を明らかにした。
また粒子シミュレーションによって詳細な解析を行ない,表面プラズモン共鳴によって表面電場が2倍弱増強されていることが示され,この増大率はナノフォトニクスの知見で得られる増大率と一致したことから,高強度光であっても光の本質は変わらず,物質が破壊されるまでのごく短時間であっても表面プラズモン共鳴による電場増強が引き起こされることが示された。
ナノフォトニクスの分野では局所的に1000倍近い電場増強率も報告されており,そのような知見を応用することにより,高強度レーザー光の光強度を同様の増大率で増強することが期待できるという。このような光強度が実現できれば,今までは困難であった陽電子線,ガンマ線,ミューオンなどの高エネルギー粒子を高輝度で生成することが可能となる。
また場の量子論では真空中に強い電場が存在すると真空が物質のように振る舞う「真空偏極」と呼ばれる現象が予言されており,研究グループは,今回得られた技術を用いることでその理解が進むことが期待できるなど,様々な応用が期待できるとしている。