琉球大学,北見工業大学,産業技術総合研究所,東海大学は,透明で柔らかな体をもつプランクトンで、貝殻を持たない巻貝であるハダカゾウクラゲから新規の光反射構造を発見した(ニュースリリース)。
ハダカゾウクラゲはクラゲの仲間ではなく,巻貝の仲間(軟体動物門・腹足綱)で,透明で柔らかな体をもつ。このような生物は身を守る貝殻を持たないため,敵に見つからないように体のほとんどが透明だと考えられている。
しかし,消化器系の末端に内臓核と呼ばれる不透明な器官があり,赤褐色の髄質を銀色の皮質が包んでいる。側面からの光をこの銀色の皮質が反射することで,内臓核は背景と似た明るさになるため水中で目立たなくなる。実際に,内臓核の皮質が反射する光の波長を調べると,ほぼ白色であることが確認できた。
内臓核を包む皮が光を反射する仕組みを明らかにするため,透過型電子顕微鏡で観察したところ,内臓核皮質は多層構造で構成されていた。1つ1つの層は厚さ0.5〜0.1µmで,その内部構造から薄く伸展した細胞であることが明らかとなった。
また,多層構造の下には細胞層があり,この細胞が伸展して多層構造の薄層に分化すると考えられた。細胞には活発にタンパク質を合成している特徴が見られ,多層構造をつくる細胞の薄層にもタンパク質が蓄積されていると推定された。
屈折率の高い薄層が屈折率の低い薄層(隙間)をはさんで積み重なって光反射率を高めるブラッグ構造は,例えば窓ガラスに貼る遮熱フィルムや合成繊維の発色にも利用されている。様々な動物でも光の反射に利用されおり,昆虫や甲殻類では屈折率の異なる薄層を積み上げ,金属的な光沢のある体表をつくっている。
また,魚の体の銀色や,イカやタコの色素細胞にもブラッグ構造を持つものがある。これらのブラッグ構造は細胞内に作られるが,ハダカゾウクラゲでは細胞そのものが薄層となって多細胞性のブラッグ構造を構成している点で新規の反射構造と考えられるという。
ブラッグ構造による光の反射特性は薄層および隙間の屈折率と厚さで変化する。光反射シミュレーションを行なったところ,薄層とその間隔は内側に向かって薄くなってゆく実際の多層構造では,幅広い波長を含む白色光を様々な角度で照射しても結果的にほぼ白色の光を反射することがわかった。これは内臓核皮質による反射光とよく一致する。
薄層と間隔の厚さが変化しないモデルを用いたシミュレーションでは,強く反射される光の波長が光を照射する角度によって変化してかえって目立つことがわかり,反射光を白色に近づけるために,薄層の厚さと間隔が薄くなることが必要だと考えられた。
研究グループは,莫大な生物多様性と進化の中で,まだ知らない数多くの機能構造があると期待している。