情報通信研究機構(NICT)は,短距離光通信の大容量化のため,簡易な装置構成の光コヒーレント伝送方式を開発し,高速光信号伝送に成功した(ニュースリリース)。
近年の急激な通信量の増加により,低コスト化や低消費電力化が要求される短距離光通信においても400Gb/sを超える通信速度が要求されてきている。
現在の短距離光通信では強度変調・直接検波方式が採用されているが,更なる大容量化には,光コヒーレント伝送方式が有効となる。しかし,光送受信器の複雑さやデジタル信号処理の負荷等によるコスト面や消費電力に課題があり,短距離光通信では実用化されていなかった。
今回研究グループは,短距離光通信に光コヒーレント伝送方式を適用するため,簡易な装置構成によりコヒーレント信号を再生可能な自己ホモダイン検波方式の光送受信器を開発し,高速伝送実験を行なった。
光送信器は,短距離光通信で一般的な(線幅が太い)レーザーと100ギガBaud以上で動作する高速光変調器を用いた。光受信器は,独自の高速光検出器の機能的な組合せとデジタル信号処理を持ち,高度化(高速化と偏波無依存化)を実現している。
伝送実験では,光送信器からコヒーレント信号(毎秒360Gb/s(90ギガBaud)16QAM)とパイロットキャリアを同時に送信し,光受信器においてホモダイン検波することにより,高速光コヒーレント伝送を実証した。
従来の自己ホモダイン検波方式の光受信器では,時間的に変化するパイロットキャリアの入射偏波状態により,受信信号品質が変化することが問題だったが,開発した偏波無依存型の光受信器では,安定した信号再生に成功した。また,実用化されている検波方式は高精度な狭線幅レーザーが必要だが,実験では一般的なレーザーでも受信信号品質が大きく変わらないことも確認した。
この実験により,簡易な光送受信器構成(光送信器の高精度レーザーと光受信器の信号再生用レーザーが不要)によるシンボルレートが高い(毎秒100ギガBaud級)高速光コヒーレント伝送を実証した。この成果は,将来のデータセンター内ネットワーク等の超大容量短距離光通信に向けた革新的技術になることが期待されるという。
研究グループは今後,今回開発した高速光コヒーレント伝送方式と波長多重技術や空間多重技術を組み合わせることにより,10Tb/sを超えるテラビット級短距離光通信技術を確立していきたいとしている。