日本電信電話(NTT)は,通常のデジタルカメラのレンズをメタレンズに置き換えるだけで,詳細な色情報画像であるハイパースペクトル画像を取得できるイメージング技術を開発した(ニュースリリース)。
IOWN構想のもと,同社は人間の知覚を超えることで新しい価値の創出をめざしている。これにあたっては,人間の目を模倣した通常のカラー画像よりも多くの色情報(波長)をとらえたハイパースペクトル画像を利用が考えられるという。
これまでのハイパースペクトルカメラでは,画像の特性の一部を犠牲にして波長(色)の情報を取り出しているため,フレームレートの低下や,特殊な仕様のイメージセンサ,あるいは特殊な機構が必要となるため大型になり,従来のカラーカメラの置き換えにはならなかった。
開発した技術では,非常に微細な構造パターンで構成される最先端レンズ「メタレンズ」を活用する。メタレンズの表面は,数百ナノメートルサイズの光を透過する構造体が多数並んだ光メタサーフェス構造になっており,この構造体一つ一つを精密に設計・作製することで,光の波長毎にまったく異なる機能をもつようにデザインされたレンズとして機能させることができる。
このようなメタレンズを通常のデジタルカメラに装着して物体を撮影すると,カラー画像でありながら物体の形状・波長情報が効果的に圧縮された「圧縮画像」を取得することが可能となる。
またメタレンズは,光透過性が高く,小さいf値をもつ明るいレンズとして動作させることが可能であるため,短いシャッター時間でより多くの光を効率的にセンサに導くことができ,常のカメラと同等のフレームレートでの動画撮影が可能だという。また,解像度も通常のカメラと同等となる。
一方,波長情報が重畳された圧縮画像から圧縮される前の状態として,もっともらしいスペクトル画像を推定する必要がある。従来この種の問題には,繰り返し計算に基づく凸最適化アルゴリズムが用いられてきたが,膨大な計算時間やスペクトル画像のもっともらしさを定義することが困難であることが問題だった。
同社は今回,凸最適化アルゴリズムの計算手順を元にニューラルネットワークの構造を設計し,既知のハイパースペクトル画像から「もっともらしい」性質を学習することで,高速・高精度での画像再構成を実現した。さらに実機を用いて,開発した基本原理を確認した。
今後は,コラボレーションパートナーと連携してユースケースへの適用実験を通して,ハイパースペクトル画像の再現精度が十分であるかの検証,およびその結果を踏まえた技術の改良を進めて,実用化をめざすとしている。