東大ら,ミュオグラフィによる台風の観測に成功

東京大学と英シェフィールド大学,英ダラム大学,伊原子核物理学研究所,伊カターニャ大学,ハンガリーウィグナー物理学研究センター,チリアタカマ大学,フィンランドオウル大学は,世界で初めて台風の透視に成功した(ニュースリリース)。

素粒子の一つであるミュオンは透過力が強く,厚さ300kmにも及ぶ水平方向の大気をも貫通することができる。このように,水平に近い角度で対流圏を飛行するミュオンは台風を通り抜けた後,地上のミュオグラフィセンサーに到達する。このミュオンの到達数を時間毎に計数することで,台風の内部構造や台風の動きを測定することができる。

今回研究グループは,,鹿児島に設置されたミュオグラフィセンサーを用い,2016年~2021年にかけて九州地方近傍を通過した台風のミュオグラフィ観測に世界で初めて成功した。その結果,台風を縦切りにした密度プロファイルを捉えることに成功した。

この密度プロファイルには,温暖核に対応する低密度領域が映し出された。台風内部における鉛直方向の密度差の大小は浮力の大小を表すために,今回撮影された鉛直密度プロファイルは台風の強さの推定に役立つ。

2016年の台風12号の観測された台風のミュオグラフィ透視像の時系列的な推移では,遠方の台風は水平線付近に映し出されるが,センサーに近づくにつれ次第に大きくなり,その後センサー上空を通過して過ぎ去って行く様子が示された。

ミュオンカウント数の時間変化と屋久島測候所及び名瀬測候所における気圧の時間変化の比較では,気圧低下を示すミュオンカウント数の増加から,台風が名瀬方向から屋久島経由で徐々に鹿児島に近づいてきたことがわかった。この結果から,測候所が無い方向においても台風接近の状況をミュオグラフィで捉えることができると期待される。

測候所は,陸上いたるところにあるわけではなく,また設置可能場所は陸上に限られている。今回の成果はミュオグラフィセンサーの設置都市周囲において,測候所が無い方向においても台風接近の様子をミュオグラフィで捉えることができることを示すもの。将来,ミュオグラフィを台風警戒システムに活用することが可能であると期待される。

また,ミュオグラフィは台風の水平方向の積分密度を測定する唯一の方法であることから,台風の鉛直方向の積分密度を与える気圧計と組み合わせることで,台風の3次元密度構造を求めることができる。これにより研究グループは,台風に関する理解が一層進むことが期待されるとしている。

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