東京大学,米プリンストン大学,大阪大学は,活動銀河核の赤外線放射強度の時間変動現象を解析することで,銀河中心ブラックホールを取り巻くダスト層(ダストトーラス)による活動銀河核中心部からの光の減衰量(ダスト減光量)を測定する新しい手法を開発した(ニュースリリース)。
銀河中心ブラックホールを取り巻くダストトーラスは,活動銀河核の莫大な放射エネルギーの燃料源となる大量のガスを貯めている。ダストトーラス中のガスの一部は重力によりブラックホールに引き込まれ,莫大な放射の「燃料」となりつつブラックホールの質量を増やす。
一方でガスに混じっているダストは活動銀河核中心からの強力な放射による圧力を受け,このダストとともにかなりのガスが外へ吹き飛ばされてしまうと考えられている。このようにダストトーラスの構造や状態を明らかにすることは活動銀河核の研究において重要となる。
研究では,活動銀河核の近赤外線放射強度の時間変動(変光)現象の解析によりダストトーラスによる減光量を測定する新しい手法を開発した。
ダストトーラス内縁部では,活動銀河核中心からの強力な紫外線・可視光によってダストは昇華寸前にまで温められ,近赤外線(波長約1~5 μm)を放射しており,これは活動銀河核中心からの放射と同様に我々までの間に存在するダストにより減光する。
可視光・赤外線に対するダストによる吸収・散乱の影響は波長が長いほど小さいため,そのスペクトルはより「赤く」(相対的に短波長側がより暗く)なる。従って,この「赤化」量を測定することでダスト減光量を見積もることができる。研究では近赤外線の異なる2つの波長における放射強度の変光量の比を使うことで赤化量を測定した。
この方法は深く隠された活動銀河核でも測定でき,また公開観測データベースをもとに簡便かつ大量に解析できる。活動銀河核463個についてダスト減光量の測定を行なった結果,可視光ならば中心放射が約1杼分の1(1兆分の1の1兆分の1)に暗くなるほどにダストトーラスに深く隠された活動銀河核も存在した。
今回測定したダスト減光量に対して,先行研究で測定されたブラックホールから我々までの間に存在するガスの量は,銀河系の星間空間における標準的な両者の比から想定される量よりも多く,さらに活動銀河核ごとにまちまちの値を示した。これはダストトーラスの内側にダストを含まないガス雲が多数存在することを示唆するという。
今後,約10万個の活動銀河核についてこの手法を適用できる見込み。研究グループは,活動銀河核現象と銀河中心ブラックホールの成長の理解のための有力な手がかりとなるとしている。