理研ら,励起一重項と三重項のエネルギー逆転を実現

理化学研究所(理研),山形大学,北海道大学は,一重項励起状態と三重項励起状態のエネルギーが逆転した発光材料を実現した(ニュースリリース)。

「同一の電子配置において,最大のスピン多重度を持つ状態が最低エネルギーを持つ」というフントの規則は,多電子原子や分子の基底状態および励起状態において広く成り立つ。例えば,これまでに合成された数多くの有機物の三重項励起状態は,一重項励起状態よりエネルギーが低く,両状態のエネルギー差(ΔEST)は正であることが知られている。

ΔESTが重要となる応用先の一つとして有機ELがある。有機ELは電気エネルギーによって有機物を励起状態にし,それが基底状態に戻る際に放出される発光を利用する。しかし,この励起状態の75%を占める三重項励起状態は通常発光しないため,大きなエネルギー損失となる。

これを解決するために,ΔESTを室温の熱エネルギーと同等まで小さくすることで,三重項励起状態を発光可能な一重項励起状態に変換する熱活性化遅延蛍光材料が提案され,研究開発が盛んに行なわれている。もし負のΔESTを実現できれば,三重項励起状態を低エネルギーの一重項励起状態に速やかに変換する理想的な有機EL用発光材料の創出につながる。

研究グループはスーパーコンピュータを用いて,約3万5000種類の分子の理論計算を行ない,負のΔESTを持つ可能性がある候補分子を見いだした。候補分子のうちHzTFEX2を実際に合成し,光物性を評価した。すると,HzTFEX2が一重項励起状態と三重項励起状態間の可逆的な項間交差を介して起こる遅延蛍光を示し,その発光寿命はわずか217nsであることが分かった。

また,通常の熱活性化遅延蛍光材料の発光寿命は低温において長くなるのに対し,HzTFEX2はその逆で,低温において遅延蛍光が短寿命化することが明らかになった。これは,発光可能な一重項励起状態が,発光不可の三重項励起状態よりも低エネルギーであり,低温において一重項励起状態の占有密度(ポピュレーション)が増大するためと考えられる。この遅延蛍光の温度依存性から,ΔESTを-11ミリ電子ボルトと実験的に決定した。

さらに,HzTFEX2を発光層に用いた有機ELにおいて,外部量子効率が17%(内部量子効率85%に相当)に到達したことから,電流励起で生じた三重項励起状態を発光に利用していることが実証された。

これにより,負のΔESTを持つ発光材料の存在を世界で初めて示した。研究グループは基礎科学として重要な発見であり,有機ELディスプレーや照明の開発に貢献するものとしている。

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