東京大学,筑波大学,国立環境研究所は,液体の脂肪酸の一種であるノナン酸の光反応によって極めて反応性の高い活性酸素であるヒドロキシルラジカル(OH)が生成することを発見した(ニュースリリース)。
OHはメタンといった温室効果ガスの大気中の存在量や,オゾンやエアロゾルといった大気汚染物質の生成に深く関わっている。そのため,対流圏におけるOHの生成の理解は重要となる。
近年,対流圏におけるOHの生成源として「脂肪酸の光反応」が注目を浴びている。例えば,生物から排出される脂肪酸の一種であるノナン酸[CH3(CH2)7COOH]のうち海洋表面やエアロゾル界面に存在するものが太陽光によって光反応をおこしてOHが生成し,大気へ放出されると考えられている。
しかしOHのような反応性の高い物質を直接検出することは困難なため,「液体の脂肪酸(ノナン酸)の光反応によるOH生成」は本当に生成するのか,生成するとすればその生成効率はどれくらいなのかなどについての詳細は不明だった。
研究グループは,「レーザー誘起蛍光法(LIF法)」と「和周波発生振動分光法(VSFG法)」とを組み合わせることで,液体のノナン酸の光反応によるOHの生成効率を実験的に定量し,さらにその光反応メカニズムを明らかにした。
LIF法は,OHの直接検出が可能な数少ない手法として知られているが,液体の光反応を調べるためにはこれまで用いられてこなかった。そこで研究ではLIF法を用いてノナン酸の光反応を調べるための実験装置を新たに開発し,OHを直接検出することでその生成効率を定量することに成功した。
その結果,液体のノナン酸の光反応によるOH生成効率は極めて低く,気体の酢酸(脂肪酸)の光反応によるOH生成効率と比べて100分の1であることを明らかにした。液体の脂肪酸(ノナン酸)と気体の脂肪酸(酢酸)でOH生成効率が異なる原因を調べるために,さらにVSFG法を用いて液体界面のノナン酸の構造を調べた。
その結果,液体界面においてノナン酸の分子は「環状二量体」という2つのノナン酸の分子同士がお互いのカルボキシ基を差し出し,水素結合を2つ作る特殊な構造になっていることを明らかにした。この液体界面における特殊な環状二量体構造によって,光反応のメカニズムが気体の脂肪酸と大きく異なるものとなり,OH生成効率が低くなったと考えられるという。
今回得られた成果は地球大気の化学反応の理論モデルに「海洋表面やエアロゾル界面の光反応によるOH生成」を適切に組み込むための第一歩となり,対流圏におけるOH生成の理解への貢献が期待されるとしている。