神大ら,植物が酸化障害を防ぐ電子伝達を解明

神戸大学,東北大学,岩手大学の研究グループは,植物が活性酸素(ROS)を抑制し酸化障害を防ぐ「P700酸化システム」において,重要な要素であるP700酸化で誘導される循環的電子伝達反応(CEF)が,光化学系I(PSI)複合体内部で生じる電荷再結合反応であることを解明した(ニュースリリース)。

光合成が行なわれるとき,太陽光のエネルギーは,CO2から糖を合成するためにチラコイド膜(葉緑体がもつ小胞を構成する二重膜。膜内に種々のタンパク質が存在し光合成の明反応を起こす)の光合成電子伝達系で化学エネルギー(NADPH,ATP)へ変換される。この光合成電子伝達系には,光化学系I(PSI)およびII(PSII)があり,それぞれが光エネルギーを吸収している。

PSIIでは水を光酸化し,電子を引き抜くとともにO2を発生させている。PSIでは,PSIIで水から引き抜かれた電子を用いてNADP+をNADPHへ還元するために,フェレドキシン(Fd)(非ヘム鉄と酸不安定性硫黄を含む,比較的小さな鉄たんぱく質)へ電子を渡す反応が進行している。

これらの水からNADPHへの電子の流れはリニア電子伝達反応と呼ばれ,光合成生物にとっては炭素獲得のための必要不可欠な反応。ところがこの反応は,光合成生物にとって酸化障害を起こしかねない危険な反応でもある。

研究グループはこれまでの研究で,すべてのO2発生型光合成生物がこの酸化障害を抑制する分子メカニズム「P700酸化システム」を持つことを明らかにし,P700酸化に伴い,PSIでCEFが誘導されることを見出していた。しかしこれまで,P700酸化とCEFの関係に言及する報告は皆無だった。

今回の研究では,CEFの分子メカニズムとその性質を明らかにするために,PSI複合体での電子伝達反応にかかわる電子伝達体(P700,プラストシアニン(PC),フェレドキシン(Fd))と,リニア電子伝達反応の活性を評価するPSIIの量子収率の相互作用を解析した。

実験の結果,P700酸化に伴う光化学系I(PSI)での循環的電子伝達反応(CEF)の誘導が,電荷再結合反応であることを明らかにした。さらに,2つ目の成果として,電荷再結合反応によるROS生成抑制メカニズムを解明した。

研究グループは,今回の研究は光合成電子伝達反応制御に関する研究の歴史の中で,これまで解明されていなかった生理現象だとしている。

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