北里大ら,光合成で働くCO2固定酵素の種間差を発見

著者: umemura maika

北里大学,京都大学,国際農林水産業研究センター,玉川大学は,光合成の二酸化炭素(CO2)固定酵素ルビスコが,進化の過程で種ごとに最適化された性質を獲得し,葉の多様性を支えていることを世界自然遺産である小笠原諸島での調査から発見した(ニュースリリース)。

植物は葉緑体に含まれるCO2固定酵素ルビスコを用いて,空気(大気)中から取り込んだCO2を固定し,光合成産物(有機物)を生成する。しかし,世界の植物種で葉の特徴(寿命,構造,成分など)は数百倍も異なり,ルビスコにとってのプラットフォーム(働く環境)は大きく異なっている。これまで,ルビスコと葉の特徴に相互関係があるのか十分に解明されていなかった。

世界自然遺産にも認定されている小笠原諸島の島々は,過去に大陸と一度もつながったことがない海洋島で,木本植物種の70%が固有種で占められている。これは,進化の実験場とも言える状況となっている。研究グループは,小笠原諸島の父島に自生する23種(18科,12目)の木本C3種を対象に,ルビスコのSC/O値と葉のさまざまな性質を比較した。

その結果,父島で共存するC3樹木種は,ルビスコのSC/O値に1.7倍もの種間差があること,また,葉寿命が長く葉面積当たりの有機物量の多い種ほど,CO2の選別が正確なルビスコをもつことを発見した。さらに,葉寿命の長い種は,葉面積当たりの有機物量が多い,葉緑体内のCO2が少ない,葉のタンパク質量が多いなどの特徴をあわせ持つこともわかった。

葉寿命の長い種では,葉緑体内のCO2が少ないためにSC/O値が高くCO2の選別が正確なルビスコの方が有利であると予測される。しかし,ルビスコにはSC/O値が高いほど反応速度が低くなる傾向が知られている。

そのため,葉寿命が短くタンパク質量の少ない種では,ルビスコの量が少ないためにSC/O値は低いけれど反応速度の高いルビスコの方が有利になると予測される。これらの予測は,葉のCO2拡散コンダクタンスと葉のタンパク質量を用いた光合成の数値シミュレーションにより正しいことが確認された。

さらに,野外で測定されたルビスコのSC/O値は,数値シミュレーションの予測する最適値とほぼ一致しており,SC/O値による光合成の最適化の割合はほとんどの種で95%を超えていた。

研究グループは,この最適化は森林生態系における樹種の多様性や光合成戦略の多様性を支える重要な要素であると考えられるとしている。

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