原研,チタンによる超高真空ゲッターポンプを開発

著者: sugi

日本原子力研究開発機構(原研)は,チタンを材料とした真空容器を電源が不要の超高真空ポンプとして活用する技術を構築し,その応用例として,電子顕微鏡の真空性能が向上することを実証した(ニュースリリース)。

超高真空と呼ばれる非常に低い圧力の状態にすることは,半導体をクリーンな状態で輸送するためや,材料の表面を分析する電子顕微鏡の分解能を長時間安定に維持するため,さらには加速器のビーム強度を上げるためなど,あらゆる産業用装置や最先端研究用装置の高度化に必要とされる。

しかし,従来の真空ポンプでは超高真空の状態まで圧力を下げるのは容易ではなく,また超高真空の状態を維持するためには,大型の真空ポンプを稼働し続ける必要がる。そのためポンプの設置のためのスペースや消費電力に大きな課題があった。

大強度陽子加速器施設(J-PARC)では加速器のビームラインにチタンを使用しており,チタン材料から真空中へ放出される気体を低減するための熱処理や表面研磨などの研究を実施してきた。

今回の研究では,チタンが持つ気体を吸着・吸収する性質(ゲッター性能)に着目し,チタンで作られた真空容器の表面を改質することで真空容器自体を超高真空ポンプであるゲッターポンプとして活用する技術を発明した。

開発した技術を適用したチタン製真空容器(=ゲッターポンプ)を試作し試験を行なったところ,一度真空にしてしまえば,従来の様に真空ポンプを稼働し続けなくても超高真空に近い状態が200日以上持続できることを実証した。

また試作ゲッターポンプを電子顕微鏡に取り付けると,従来の真空ポンプだけでは10-5パスカル台であった電子顕微鏡内の圧力が,10-6パスカル台へと10分の1に改善し,真空性能が一桁向上することも確認した。

既存のゲッターポンプは,ゲッター材料の焼結体を真空の中に配置するが,この技術ではゲッター材料を設置するスペースが不要となる。この技術を用いた真空容器は,電子顕微鏡や加速器のビームラインだけでなく,真空を維持したまま半導体部品を輸送する容器などにも利用が可能。

また真空容器自体がゲッターポンプとして機能するため,従来ポンプに必要である設置スペースや消費電力を大幅に低減することが可能となる。研究グループは,カーボンニュートラルな持続可能社会に大きく貢献するとしている。

キーワード:

関連記事

  • JAISTら,ナノ粒子の三次元結晶構造の決定に成功

    北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)と日本製鉄は,高分解能透過電子顕微鏡法とデータ科学手法を組み合わせた格子相関解析を開発した(ニュースリリース)。 金属酸化物ナノ粒子や金属オキシ水酸化物ナノ粒子は,触媒,エネルギー […]

    2025.05.09
  • 横国大ら,チタン単結晶に赤外線照射で高調波を発生

    横浜国立大学,神奈川県立産業技術総合研究所,物質・材料研究機構,京都大学,JAXAは,軽量な構造材料として知られる金属チタンの単結晶に赤外線短パルスレーザーを照射することによって,入射波の3倍,5倍のエネルギーを持つ高調 […]

    2024.12.23
  • JAEAら,電源不要の真空トランスファーケース開発

    JAEAら,電源不要の真空トランスファーケース開発

    高エネルギー加速器研究機構(KEK)と日本原子力研究開発機構(JAEA)が運営するJ-PARC(大強度陽子加速器施設)では,容器自体が真空を保つ性能を持つ「超高真空ゲッターポンプ」の技術を発明し,軽量かつコンパクトで電源 […]

    2024.11.01
  • 宮崎大,光顕用パラフィン切片で電顕解析を可能に

    宮崎大学の研究グループは,過マンガン酸カリウムの酸化反応を利用した簡便迅速電子染色法の開発に成功し,光顕用パラフィン切片の超微形態解析を刷新するブレイクスルーを得た(ニュースリリース)。 生体の様々な器官は特有の生理機能 […]

    2024.10.11
  • 千葉大ら,厚さ1.6nmの炭化チタン膜でCO2光還元

    千葉大学と中国成都バイオガス科学研究所は,MXene(マキシン)と呼ばれて近年盛んに研究されている新たな2D材料,「炭化チタン超薄層化合物 Ti3C2Xy(X=O,OH,F,orCl) 」は電気を通す効果があり,複合した […]

    2024.02.29
  • 理研ら,XFELと電顕で低分子有機化合物の構造解析

    理化学研究所(理研),東北大学,高輝度光科学研究センターは,X線自由電子レーザー(XFEL)を用いて,低分子有機化合物の微小結晶から水素原子を含む詳しい構造解析が可能なことを明らかにし,XFELと電子顕微鏡の相補利用の有 […]

    2023.03.22
  • 立命大,チタン合金の超精密研磨技術を開発

    立命館大学の研究グループは,チタン合金の高効率・超精密研磨技術の開発に成功した(ニュースリリース)。 チタン合金は優れた機械的特性,耐食性,生体適合性などを持つ高機能材料であり,高性能な機器に応用するために,さまざまな加 […]

    2022.12.07
  • 医科歯科大ら,チタンの高い生体適合性を光で解明

    東京医科歯科大学と大阪大学は,チタンの不働態皮膜の電子バンド構造から,チタンが優れた生体適合性を示すのは,高い耐食性と適度な反応性を同時に発現するためであることをつきとめた(ニュースリリース)。 チタンおよびチタン合金の […]

    2022.05.10
  • オプトキャリア