京大ら,赤外光駆動型光合成をクライオ電顕で観測

京都大学,兵庫県立大学,理化学研究所,名古屋大学,大阪大学は共同で,クライオ電子顕微鏡を用いて,近赤外光を吸収するクロロフィルdを主色素として光合成を行なうアカリオクロリス・マリナ(Acaryochloris marina)の光化学系I(系I)複合体の構造を明らかにすることに成功した(ニュースリリース)。

クロロフィルによって吸収された光エネルギーによって,反応中心と呼ばれる特殊なクロロフィル2量体の励起が光合成の起爆点(光化学反応)になる。ほとんどの酸素発生型光合成生物では,可視光を吸収するクロロフィルaがその役目を担う。

一方,アカリオクロリス・マリナ(Acaryochloris marina)の主色素はクロロフィルdとなる。クロロフィルdによる光化学反応は,近赤外光により駆動されるため,クロロフィルaに比べて80mVもエネルギーが小さくなる。

酸素発生型光合成の光化学反応には光化学系Ⅰ(系Ⅰ)と光化学系Ⅱ(系Ⅱ)の2種類があり,系Ⅱは水を分解して酸素を発生し,得られた電子を受け取った系Ⅰにより,還元力を持つNADPHが生成される。アカリオクロリス・マリナの発見からおよそ四半世紀の間,生化学的・分光学的解析が進められてきたが,近赤外光の小さなエネルギーで他の酸素発生型光合成生物と同様の反応が遂行されるメカニズムの理解には至っていなかった。

今回,研究グループは,冷陰極電界放出型の電子銃を備えた新型の国産クライオ電子顕微鏡を用いて,アカリオクロリス系Ⅰ複合体の原子構造を 2.58Å分解能での決定に成功した。

これにより,エネルギーの低い近赤外光で光化学反応が駆動され,通常の酸素発生型光合成が行なわれるアカリオクロリス・マリナの系Ⅰ複合体の立体構造が,初めて明らかになった。これは,近赤外光を利用する酸素発生型光合成生物という生態学的にも重要な位置づけにある生物の,エネルギー獲得の仕組みの一端を明らかにしたことだとする。

そして,酸素発生型光合成生物がすべて可視光吸収型クロロフィルaを主色素として利用している中で,エネルギーの低いクロロフィルdを獲得して,その低いエネルギーで通常の酸素発生型光合成を実現することができるようになった進化上の問題解決にも,この研究の結果はとても有用だという。

さらにこの研究結果は,太陽光の中にふんだんに含まれている近赤外光を有効に利用する,太陽電池や人工光合成等への応用開発が期待できるとしている。

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