東京大学と東京工業大学は,細胞内セカンドメッセンジャーの一種であるcGMP(環状グアノシン一リン酸)を可視化できる,赤色cGMPセンサーRed cGullの開発に成功した(ニュースリリース)。
cGMPは,平滑筋の弛緩,視覚情報の伝達,アポトーシスなど,生体内のさまざまな生命現象に関与することが知られているセカンドメッセンジャーの一種。これまでに,cGMP動態を可視化する緑色蛍光タンパク質センサーが,研究グループが開発したものも含め,複数発表されている。
現在普及している多くの蛍光タンパク質センサーは,緑色蛍光タンパク質を基盤としている。細胞内のシグナル分子や代謝物の階層的な反応を理解するためには,同一細胞内でCa2+やcAMPなどの他の細胞内セカンドメッセンジャーと同時に多色イメージングすることが有効な手段の1つとなる。
そのため,緑色蛍光タンパク質センサーと併用可能な,赤色蛍光タンパク質を利用した蛍光タンパク質センサーの開発が望まれている。
今回開発したRed cGullは,赤色蛍光タンパク質mAppleを二分割し,その間にcGMP分解酵素(PDE5α)のcGMP結合ドメインを挿入した構造をもつ,蛍光タンパク質センサー。mAppleとPDE5αの間のリンカーアミノ酸配列を最適化することで,cGMPに対する蛍光応答を調節した。Red cGullはcGMPに応答して蛍光輝度が約6.7倍上昇するという。
Red cGullをヒトやマウスのさまざまな臓器由来の細胞に発現させ,蛍光顕微鏡によるイメージングを行なうことで,細胞内のcGMP動態をリアルタイムで可視化解析することに成功した。また,Ca2+特異的な緑色蛍光色素や,青色光活性型タンパク質と同時に使用することで,2色イメージングや光遺伝学ツールとの併用が可能であることも示した。
さらに,Red cGullをマウス小腸内分泌細胞株に発現させ,消化管ホルモン分泌時における細胞内cGMP動態について解析した結果,アミノ酸であるL-アルギニンが,一酸化窒素合成酵素を介して小腸内分泌細胞のcGMP産生を促すことを明らかにした。
Red cGullは,赤色蛍光タンパク質を基盤とした世界初の蛍光タンパク質型cGMPセンサーで,多くの緑色蛍光タンパク質センサーや光遺伝学ツールとの併用が可能。細胞内のcGMP濃度変化を高い時空間能でリアルタイムに捉えることは,多くの疾患に対する新規予防法・診断法の確立に寄与できる可能性があるとしている。