国立天文台(NAOJ)を中心とする研究グループは,すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラを用いて,我々の住む天の川銀河と同程度の質量の銀河9つの周囲を撮像した結果,93個もの衛星銀河の候補天体を発見した(ニュースリリース)。
天の川銀河のような大きな銀河の周囲には小さな「衛星銀河」がいる。天の川の衛星銀河は現在までに50個以上検出されているが,その数は理論的な予想よりも一桁以上少なく,またその空間分布は等方的ではなく偏りがある。
これらの問題は,現在広く支持されている標準的な宇宙論モデルの「ほつれ」の一つと見なされていて,理論と観測のギャップを埋めるべく,精力的な研究がなされている。一方,衛星銀河の問題が普遍的なものなのか,それとも天の川銀河に特有の問題なのかは明らかになっていない。
研究グループは,すばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム:HSC)を使って,約5~8千万光年離れた,天の川と同程度の質量を持つ9つの銀河について,衛星銀河が分布する領域をくまなく撮影した。
HSC が撮影した高感度画像には無数の銀河が映り込むが,それら銀河の画像を詳細に解析して衛星銀河と背景の銀河を区別することで,暗く小さな衛星銀河の候補を93天体検出することに成功した。
比較の結果,銀河ごとの衛星銀河数には大きなばらつきがあるが,天の川の衛星銀河の数と同程度であり,天の川が衛星銀河の特段少ない銀河ではないことがわかった。一方,親銀河から見た衛星銀河の配置を調べたところ,どの方向にも同程度の衛星銀河が存在する等方的な配置の兆候を示していた。
天の川の衛星銀河の多くは同一平面上に偏って分布していて,その配置の特異性が浮き彫りにされる結果となった。この結果は,実は天の川が宇宙の中で典型的な銀河ではないことを示している可能性もあるとする。
新たに検出された近傍銀河の衛星銀河は,衛星銀河に関する諸問題を統計的に検証するために貴重な情報。一方,今回の観測では衛星銀河かどうかはっきりしない天体もあり,今後すばる望遠鏡の超広視野多天体分光器(PFS)による追観測によって同定していくことが期待されるという。
最も観測が進む天の川銀河は宇宙論モデルの比較対象としてよく採用されるため,天の川が標準的な銀河であることの正否は宇宙論モデルの根幹に関わる問題となる。研究グループは,さらなる観測によって天の川以外の衛星銀河の3次元分布の精査と観測例の蓄積が進めば,宇宙論モデルと観測結果をより公平に比較できるようになるとしている。