神戸大学とAGCは,光オン・デマンド合成法によって開発したフッ素化カーボネートが,医薬品中間体などの合成において特異的に高い反応性(化学反応を促進する性質)を持ち,取り扱いが容易で,環境負荷の小さな化学品合成原料となることを実証した(ニュースリリース)。
医薬品中間体やポリマーの原料としてホスゲンがよく用いられる。しかし,ホスゲンは極めて高い毒性を持つため,代替可能な化合物の研究が行なわれてきた。ホスゲンよりも毒性の弱いジフェニルカーボネートがいくつかの化学反応を代替しているが,わずかな例に限られている。
代替可能な化学反応を増やすために,高反応性カーボネートの開発が求められてきた。しかし,カーボネート化合物も一般にホスゲンとアルコールから合成されるため,その開発はほとんど進んでいない。
研究グループは,汎用有機溶媒のクロロホルムにアルコールおよび有機塩基を溶解させた溶液に光を照射するだけでカーボネートを高効率で合成でき,ホスゲンを用いずに様々な化学品合成を行なうことを可能にした。研究グループはこれを「光オン・デマンド有機合成法」と命名している。
有機フッ素化合物は,一般に特異な性質(水や油をはじく,熱に強い,薬品に強い,光を吸収しないなど)を持ち,撥水剤,表面処理剤,乳化剤,消火剤,コーティング剤などに用いられている。また,電子を引きつける力が強いため,独特な化学反応を引き起こすことも知られている。
研究では,光オン・デマンド合成法を用いて合成した高反応性フッ素化カーボネートの反応性を,アルコール(OHを持つ化合物)やアミン(NH2を持つ化合物)との反応速度や生成物の収量,およびフッ素化カーボネートの赤外分光スペクトル解析などから評価することに成功した。
その結果,汎用のジフェニルカーボネートと比較して,フッ素化カーボネートは,より反応性が高く,生成物の精製(反応処理)が容易など,多くの優位性が明らかになった。フッ素化合物は水や油と混ざりにくい性質を持ち,沸点が低いため,生成物の精製(反応処理)は乾燥させるだけでよく,副生成物が残留しにくい。
フッ素化カーボネートは,光オン・デマンド合成法で,汎用有機溶媒のクロロホルムとフッ素化アルコールから大量合成することができる。フッ素化カーボネートの合成,およびそれを用いる化学品合成は,低エネルギー・低環境負荷の新たな化学反応として,カーボンニュートラルおよびSDGsに大きく貢献する科学技術となることが期待されるとしている。