東北大学の研究グループは,高耐食化元素として知られるMoを固溶させるのではなく,独立した第二相として濃化・分散させた新規の焼結ステンレス鋼を開発した(ニュースリリース)。
ステンレス(SUS)鋼は,高耐食材料として,さまざまな分野で使用されている鉄(Fe)にクロム(Cr)やニッケル(Ni)を混合した合金。しかし,海水などの塩化物濃度が高い水溶液中では,孔食と呼ばれる局部的な腐食が発生する場合がある。
ステンレス鋼の耐孔食性を高める手法に,新たな合金元素の添加がある。特に,Moの合金化は効果が高く,SUS304鋼(Fe-18%Cr8%Ni)に,Moを合金化したSUS316鋼(Fe-17%Cr-12%Ni-2.5%Mo)は,高い耐久性や安全性が求められる産業機器に使用されている。
しかし,近年注目を集めている3D積層造形技術で作製したSUS316鋼材は,粉末を焼結する際に生じる気孔の存在により,鋳造・圧延材よりも耐孔食性が低いことが問題になっている。粉末に加えるMo濃度をSUS316鋼よりも高める方法も考えられたが,大幅なコスト増加になるという問題があった。
研究グループは,Moを固溶体成分ではなく,「Mo濃化組織」として低炭素型のSUS304L鋼に分散させたステンレス鋼を開発した。このような特異な金属組織を有するステンレス鋼は,溶解-鋳造-圧延という通常の製造プロセスでは得ることができない。
そこで研究では,ステンレス鋼粉末とMo粉末を混合し,放電プラズマ焼結法という手法を用い,低温かつ短時間で焼結し,Moが分散したステンレス鋼を作製した。そして,このステンレス鋼に熱処理を施すと,Moとステンレス鋼中のCrとNiが反応し,BCC相(体心立方晶)とFCC相(面心立方晶)からなる「Mo濃化組織」が生成することを発見した。
このMo濃化組織は,腐食環境において元のステンレス鋼に比べ溶解しにくく,発生した孔食が成長する際のバリアとして働き耐孔食性を向上させることも見出した。Mo濃化組織の体積分率は熱処理温度の上昇に伴って増加し,それに応じて耐孔食性が約4倍まで向上することを確認した。
このステンレス鋼は,同じMo濃度で比較した場合,Moを固溶体として合金化した従来材よりも優れた耐孔食性を示した。Moを第二相として濃化分散させることで,固溶体化よりも高い耐孔食性をステンレス鋼に付与できることを見出した点は画期的だとする。
研究グループは,Moのみならず他の希少元素に応用できれば,省資源型高耐食ステンレス鋼の開発にもつながるとしている。