東京工業大学の研究グループは,ペンギンの体表を模倣したリブレット(微小な列状突起の集合体)フィルムを製作し,流体摩擦抵抗を低減する効果を明らかにした(ニュースリリース)。
ペンギン羽毛の研究では,羽毛の保温効果や撥水効果が示唆されてきた。一方,流体力学の観点から表面に露出した羽毛の形状が流体抵抗に与える影響について調べられたことは,これまでほとんど無かった。
研究グループは「羽毛が体表に形成する列状の凹凸形状がリブレットとして流体摩擦抵抗を低減する」という仮説を立て,ペンギンは急旋回などの俊敏な泳ぎをすることから,抵抗低減効果は流速方向の変化に強いことを期待した。
従来から知られる流体摩擦抵抗を低減する表面形状として,サメの鱗から発想された「リブレット」がある。これは,特定の条件下で摩擦抵抗を低減するが,流速方向に対する角度の変化に弱く,リブ配向と流速方向が平行な場合から角度がつくほど抵抗低減効果は弱くなり,やがて抵抗増加に転じる。
研究では,ペンギンの体表面の毛の間隔と断面形状を計測した。隣り合う毛の間隔は約100µmで,毛の断面形状は台形に近く,幅約60µm,高さ30µmだった。実寸大の微小な模倣リブレットをセンチメートルスケールの大面積に製作する方法として,紫外線レーザスキャンによるポリイミドフィルムの溝加工を採用した。ペンギンの体表の流れを再現するために,サイズを縮小したリブレットも製作した。
製作したリブレットフィルムを金属平板の両面に貼り,水流中での抵抗を計測した結果,実験中の最も遅い流速のときに最大の抵抗低減率2.0%を得た。抵抗低減効果は,実験中の最も速い流速でも1%未満ではあるが維持された。さらに,どの流速でもリブレットが流速方向と平行な場合よりも偏差角を15°つけた場合の方が,抵抗低減率は大きかった。
従来の薄板リブレットや鋸歯状リブレットの最大摩擦低減率は,今回の模倣リブレットの最大低減率よりも大きい。しかし流速方向に対して平行な場合から角度を付けると,低減率は悪化する。今回の模倣リブレットは,平行な場合よりも15°角度を付けた場合に低減率が向上した。
今回の実験結果は,ペンギンの体表の羽毛が遊泳中の流体摩擦抵抗を低減することを初めて示唆するもの。さらに,旋回遊泳などの機動によって相対流速の向きが15°程度変化する場合にも抵抗低減効果は維持されるのみならず,向上する可能性も示唆された。
研究グループはこのこのリブレットが,流速方向が変化する乗り物や水着などの抵抗低減への応用が期待でき,台形のリブ断面形状には壊れにくさが期待できるとしている。