早大ら,実験を電子ノートで記録し解析するAI開発

早稲田大学と物質・材料研究機構(NIMS)は,日々の化学・材料実験の様子を電子実験ノートとして記録し,実験操作と結果の関連を自動で解析するAI(人工知能)システムを構築した(ニュースリリース)。

科学研究の記録は実験ノート,学術論文、特許などの媒体で蓄積されてきたが,公知文献からは細かな条件,更には失敗した実験の結果などは割愛され,実験結果に関わる因子が網羅されているとは言い切れない。

そこで研究グループは,日々の材料実験の様子をグラフ構造と呼ばれるデータ形式で記録し,AIで自動解析するシステムを構築した。グラフ構造とは情報間の関係性を点と線で繋いだデータ形式で,AIにとって文章や画像よりも処理が容易。また,実験研究者にとって馴染み深いフローチャートの仲間でもある。

グラフ構造は,実験操作や結果に加え,実施日や気温,装置や試料の状態などの材料特性に影響しうる様々な情報を記録できることから,AIと研究者の双方に適したデータ構造だという。蓄積したデータは次項で説明する新たに開発した分析手法によって自動解析される。

今回,より分析性に優れたFingerprintと呼ばれる手法を新たに採用した。これは特定の実験操作の有無を判定するアルゴリズムで,分子構造と物性の相関解析などの用途で活用されている。研究では実験操作へ応用することで,人間にも分かり易い形でデータベースを数値化できるようになった。

このシステムを高分子固体電解質の実験研究で運用した。失敗した実験も含め,500回以上の実験データをグラフ構造として記録し,今回のAIシステムを使って実験結果を解析することで,新材料の性能を規定しうる重要な構造・実験因子を抽出できた。これは,将来の研究方向として材料・データ科学の一層の融合が必要であることを示す実証事例となる。

従来の研究では紙面に記録された実験ノートを読み解き,解析用のデータベースを研究者が構築する大きな手間がかかった。この過程を無くすことで,実験系研究室のDXを一気に促進できる。

研究グループは,日々の実験記録やノートを,(研究室の中で眠らせるだけでなく)データ解析に適した形で世界中に公開することで,人類の科学研究が一気に加速し,オープンサイエンスに参加する研究者が増えることを期待するとしている。

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