東京都立大学の研究グループは,半球型の超音波トランスデューサアレイと適応的な位相振幅制御技術を巧みに組み合わせることで,音波を利用して完全非接触で空間にある微小物体を選択的に拾い上げる「空中音響ピンセット」なる新しいガジェットを開発した(ニュースリリース)。
過去の研究において,音を利用して微小物体を非接触で移動させる技術は報告されている。しかし,トランスデューサアレイを用いて物体を操作する際に反射音によって音場が乱された場合,物体に力が正しく働かず,意図した操作ができなくなってしまうことがある。
そのため,従来技術では対象である微小物体に対して金属製ピンセット等を使用しトランスデューサアレイの近くまで持っていき,接触動作によって微小物体を音響的トラップにセットする必要があった。
研究では,半球型トランスデューサアレイをマルチチャンネル化し,逆フィルタによる最適化を用いて適応的な位相振幅制御を行なうことで,ステージ上にある物体を安定的に完全非接触で拾い上げることを試みた。
半球型トランスデューサアレイの駆動方法として,半球状のアレイの対向する半分を同位相で駆動する方法と逆位相で駆動させる方法を巧みに組み合わせた。具体的には,ステージと音響トラップ位置の距離によって適応的に形成する音場を修正する。
結果として,音波を利用して完全非接触で空間にある微小物体を選択的に拾い上げる装置「空中音響ピンセット」の開発に成功した。空間に反射音があったとしても適切にトランスデューサアレイの位相振幅と励起モードを制御することで,安定性のある空中音響ピンセットを開発した。
生物学や化学の世界では,昔から光トラッピングと呼ばれる技術によって,光を使って微小な物体を動かしてきた。研究の空中音響ピンセットは,光ピンセットの音響版ともいえる技術だとする。
研究グループは,物理的接触のない状態を厳密に保つ必要がある試料の操作や,無重力の空間を含む様々な環境下での微小物体操作など未来型技術への応用が期待されるとしている。