東北大,多孔膜と光架橋でLIB用固体電解質を合成

東北大学の研究グループは,ミクロンサイズの孔がハニカム(蜂の巣)状に空いた厚さ数ミクロンの高分子多孔膜と,光架橋性ポリエチレングリコール(PEG)系高分子電解質を複合化することで,Liイオン伝導度が液体と同等で実用的に十分な10-4S/cmクラスで,広い電位窓(4.7 V),高いLiイオン輸率(0.39)を実現した(ニュースリリース)。

リチウムイオン二次電池(LIB)は,Liイオン電解質にエチレンカーボネート(EC)などの有機電解質やそれらをゲル化したものが使われてきた。しかし,これらの有機電解質は可燃性のため,衝撃が加わった際に発火の原因となるなどの課題があった。

これまで研究グループは,両末端に架橋基を組み込んだPEGDAと短鎖のPEG(tetraglyme)で溶媒和したリチウム塩を混合し,UV光を用いた光架橋により固化することで,室温で10−5S/cm 程度のLiイオン伝導度を示す固体高分子電解質を開発してきた。

この電解質は架橋により室温における急激なイオン伝導度の低下を抑制できる上,簡便に多様な電極材料表面に形成可能で,十分な力学的特性も備えている。しかし,実用的な伝導度には,さらなる性能向上が求められていた。

電解質中を移動するLiイオンは自然拡散により,さまざまな方向に移動する。その距離は数µm~10µm程度であり,必ずしも電極間を直線的に移動せず,イオン伝導度の低下の要因の一つとなっていた。そこで研究では,光架橋PEG系固体高分子電解質の性能向上に向け,ミクロンサイズの多孔膜との複合化することを考案した。

研究グループは,水滴を鋳型としてミクロンサイズの孔が穿たれたハニカム高分子多孔質膜の形成手法を報告している。この手法により,多様な疎水性高分子材料からサブミクロン〜ミクロンサイズの多孔膜を形成できる。

研究では,孔のサイズが異なるハニカムフィルムと光架橋PEG系固体高分子電解質を複合化し,そのLiイオン伝導性を評価したところ,孔径が10μm前後の場合,10-4S/cmクラスの実用的な伝導度が得られた。この孔径はちょうどLiイオンの拡散長と一致することから,孔の整流効果による性能向上が示唆された。

また,耐電圧性を示す電位窓も4.7V,リチウムイオンの輸率も0.39と,通常のPEG系固体電解質の0.10を超える高い性能を示すことを見出した。

研究グループは,この電解質が簡便に高性能なLiイオン固体高分子電解質を提供できる上,多孔膜を内包することで,発火の原因となるLiイオンデンドライトの形成・成長抑止にも効果が得られるとしている。

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