CROSSら,ナトリウムイオン電池の負極材料に光

総合科学研究機構(CROSS),東京理科大学,高エネルギー加速器研究機構は,ナトリウムイオン電池の負極材料として注目されているハードカーボン中のナトリウムイオンの動き易さの指標である「自己拡散係数」の導出に成功した(ニュースリリース)。

ナトリウムイオン電池の負極には,リチウムイオン電池の負極である黒鉛が使えないので,代わりにハードカーボンが使われる。ハードカーボンはグラフェン層が複雑に積層・凝集し,微細空孔を多く含む構造を持つため,ハードカーボン中でのナトリウムイオンの運動は不明だった。

ナトリウムイオンの運動速度(拡散係数)の最も遅い部分・材料が,ナトリウムイオン電池全体の充放電速度を決めるので,電池の各構成要素の拡散係数を求めることは,高性能電池開発の基本。しかし広く普及している「電気化学を基礎とする従来測定手法」では,材料固有の拡散係数を決めることは不可能だった。

研究グループはミュオン素粒子に注目。ミュオンは小さな磁石なので,やはり小さな磁石であるナトリウム核が運動すると,それに伴う微妙な磁場変化を捉える可能性がある。そこで,磁石の向きの揃ったミュオンを大量に供給しているJ-PARCで,様々な温度でミュオンスピン回転緩和法(µSR)による実験を行なった。

その結果,ハードカーボン中のナトリウムイオンの「自己拡散係数 DJNa」の導出に成功した。解析の結果,自己拡散係数は27℃でDJNa=2.5×10-11cm/sと見積もられ,黒鉛中のリチウムイオンの自己拡散係数の1/3~1/6程度だった。一方,拡散の障壁となるエネルギー(熱活性化エネルギー)は黒鉛中のリチウムの場合の1/5~1/7なので,温度変化に強く低温まで利用できることも分かった。

室温以上の高温では,グラフェン層間のみならず微細空孔中のナトリウムイオンの拡散も検出された。微細空孔中のナトリウムイオンが,より低温から拡散開始できるような構造をいかに実現するかが,今後のハードカーボン系負極材料の性能向上の鍵となりそうだという。

これらの結果は,リチウムイオン電池に代わるナトリウムイオン電池の負極材料開発に大きな指針を与えるもの。研究グループは,ハードカーボンと組み合わせる正極材料や電解質の拡散係数を求めることにより,ナトリウムイオン電池全体の充放電性能におけるボトルネックを決定し,より高性能な電池の実現につなげるとしている。

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